29.新しい情報2
ナナカは、ナミ小僧の目線に高さを合わせるために、その場にしゃがんだ。
濃い青色の着物から、ぽたぽたと水滴が落ちている。昨日会ったばかりだというのに、熱を出して寝込んだりと、いろいろあったので、かなり昔のことのような気がする。
「昨日は助けてくれてありがとうね。
あの時、ナミ小僧に会えなかったら、どうなってたかと考えると、怖いよ」
ナミ小僧は、嬉しそうにへへッと鼻の下をこすった。
「あのね、私、ナミ小僧を助けたの思い出しちゃった!」
「ほんと? やッたあ」
ナミ小僧は、両手をあげて、喜んだ。
「大きな台風が、この辺りに上陸した時だッたんだ。
波がすッご~く高くッて、おいら、その波で遊びたいなッてちょッぴり思ッたんだよね。楽しいだろなあッて。
でも、波に巻き込まれて、岩場に叩きつけられちゃッて……。
それからもね、波に翻弄されて、おいら、随分と弱ちゃッてさ。
小さな蛇のような姿になッちゃッたんだ。
そいで岩場に打ち上げられたんだ。気が付いた時には、台風が過ぎて大分経ッて、かんかん照りになッてたから、じんじん熱い岩の上で干からびそうだッたよ。
おいら、元気もないし、手も足もないから、海に戻るに戻れなくッて」
「あの時はね、おばあちゃんに言われたの。
そうじゃなかったら、台風の後は波が高いから、危なくて海へ近付かなかったと思うの」
「そッかあ、またサトおばあちゃんに助けられてたんだねえ。
おいら、もッと昔にも助けてもらッたことがあるんだ」
やっぱりおばあちゃん、すっご~い! そう思うナナカだった。
ナナカは、ナミ小僧と楽しく語らってから、琉河町の自宅へ戻った。
明日、桃香島へ行くために、電車の時間を調べたり、準備をしたりしようと思ったのだ。
地元の仲間と遊びに行って不在だとばかり思っていたのに、自宅にはカイリがいた。
「ナナカ、日焼けしたな」
カイリは、ちょっと笑ってそう言った。
朝のことがあったので、ナナカは顔を合わせるのが少し気まずかった。
でも、なんとあれからカイリは、人へ聞いたり、調べたりしてくれたらしい。
やはり、カイリは、頼りになる兄だった。
ナナカは、部屋に来るよう言われ、兄の部屋へ行った。
カイリの部屋は、ブルーのカーテンやベッドカバーですっきり統一されているので、余計に涼しく感じられた。
(カイちゃんが東京に行ってから、ガランとして寂しかったけど、やっぱりこの部屋にはカイちゃんが似合うな)
今朝起きた時も、隣の部屋から兄の気配がして、とても嬉しくて安心した気持になったナナカだった。
カイリはデスクチェアに座り、ナナカはベッドに座った。
「調べてみた所だと、ナナカ達の話と、関係のありそうなことも出てきたよ」
「えっ、ほんとに?」
カイリは、口の端を上げて、頷いた。
「ああ。美浦の岬に『龍蛇穴』という洞窟があり、その洞窟は、富士山と繋がっているってことになってるんだ」
(おばあちゃんから聞いた話と重なってる部分がある!)
朝、カイリから聞いて、さっきサトともその話をしたばかりだった。でも、富士山と美浦っていうのは、始めて聞いた。
「富士山と、美浦?」
「ああ、富士山と桃香島が、繋がっているかもしれないって話は有名だから、気になったんだ。それで、調べたら、富士山と美浦も出てきたんだよ」
ナナカは目を丸くした。
「それに、富士山は、桃香島の洞穴とも繋がっていて、絶えず龍が光速で通り抜けていると言われているそうだ」
「そうそう!」
ナナカは、何回も頷いた。




