27.新しい情報1
昔、昔の話だ。
昨日、和田平太と大蛇の話をしただろう?
それよりも、遥か昔の話だ。
桃香島の近くに、五つの頭を持つ龍が棲んでいた。
これが悪い龍でなあ、地震や嵐を起して、近くに住む村人を、さんざん困らせていたんだ。
そしてある日、五つの頭を持つ龍は、なんと村の子どもを喰らってしまったんだよ。
それから、龍は子どもは美味いものだと知って、大勢の子どもを喰らっていった。
村人は、恐れて村の場所を他所へ移したそうだ。
そうした時、突如海が大爆発し、忽然と一つの島が現れた。五つの頭を持った龍も、この出来事には驚き、じっと見守っていたんだ。
すると、天から美しい姫が紫の雲に乗り、2人の童女を連れて、しずしずと島へ下りて行った。
その時、どこからともなく美しい音楽が流れてきてなあ、それはそれはかぐわしい香りが、漂ってきたそうだ。
五つの頭を持つ龍は、
「美しい姫ぎみじゃ、わしが妻に迎えようぞ」
と、波をかき分けて島へ行った。
「わしはこの辺りを治める五頭龍じゃ、おぬしを妻に迎えよう」
「何を申すか、五頭龍。
お前は、地震や嵐を起して、村人をさんざん困らせたり、いたいけな子どもを喰らったり、他にも、あらん限りの罪をおかしてきたではないか。
天女はけして、そのような者の妻とはならぬ」
天女は毅然とそう言って、洞窟の中へ入ってしまったんだ。
五つの頭を持つ龍は、打ちひしがれて退散したが、翌日にはまた島へ行った。
「天女様、どうか許して下さい。
これからは、心を入れ替えて、けして悪いことは致しません。
村人を守り、慈しみ、幼き子も二度と飲みません。
どうか、信じて下さい。
五頭龍は、生まれ変わったつもりで生きて参ります」
そして、良い香りのする、熟れた瑞々しい桃の実のついた枝を差し出した。
天女は、慈愛に満ちたほほ笑みを浮かべ、桃の枝を受け取った。
「そなたの、心を入れ替えるという言葉を信じましょう」
それから五つの頭を持つ龍は、干ばつが起きれば雨を降らせ、嵐が襲ってきたらはね返し、津波にはぶつかって押し留めた。
しかし、その度、五つの頭を持つ龍は、痩せ、衰えていった。
ある日、五つの頭を持つ龍は、涙ながらに決意を述べた。
「わたしの命はやがて尽きることでしょう。これからは、山となって村をお守り致します」
五つの頭を持つ龍は、島に寄り添うようにうずくまり、山になった。
その山は、しばらく桃の甘い香りがしていた。
そして出来たのが、桃香島という話だ。
ナナカは、相槌をうったり、感心したりして、最後まで聞き入った。島の情景が浮かんでくるようだ。
話を終えると、サトはしゃべり疲れたらしく、そっと目を閉じた。
昨日ナナカは、美浦の狩倉にあった深い洞穴が、ネコミミ島の『龍穴』に繋がっているという言う伝えをサトから聞いた。
他にもいくつかの洞窟と繋がっていて、目には見えないほどのスピードで、龍が出入りをしている、と。
また、龍と洞窟の話が出て来るとは……。
サトが目を開けた。
眼差しは、温かいほほ笑みを含んでいる。
「富士山は、桃香島の天女のいた洞窟とも繋がっていて、絶えず龍が光速で通り抜けている、と言う話もあるんだよ」
「桃香島は、何か関係がありそうだね」
桃香島は、隣の県にある島だった。
有名な観光地で、テレビでも盛んに取り上げられる島だ。
往復1日掛かりになるけれど、行ってみる価値はある。
「あ、そうだ! ネコミミ島の『龍穴』にはね、何にもなかったのよ……。
それとね! 昨日ね、ナミ小僧に会っちゃったのよ!
おばあちゃん、ナミ小僧は本当にいたのね」
サトが目を細めた。




