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26.岐れ道

 荒来のサトの家は、やはりいい風が吹き抜けていた。


 カイリと少し気まずい雰囲気になったので、ナナカは早々に琉河の自宅を出たのだった。

 今日も、サトの所には朝からさっそく誰か来ていたようで、来客用のコップが置かれたままになっていた。

「おばあちゃん、一人暮らしで何か不自由してることって、ある?」


「おやおや、急にどうしたんだ。

 不自由ねえ……。

 年も年だから、全くないとは言えんが、それなりにはやっていけてるよ」

 サトが、ゆっくりと話しながら笑みを浮かべた。

 笑うと、皺が深く刻まれる。


「ナナカ、わしはなあ、十分好きに生きてきた。

 あちこちガタがきているし、これからはなあ、お前達にも面倒をかけるかもしれないなあ」


 ナナカが何を思って聞いたのかなんて、お見通しだったらしい。

「おばあちゃん、知ってた?」


「カイリは、自分で気付かねばならんだろうなあ」

「カイちゃんが、自分で気付くって何を?」


 サトが、静かに目を閉じた。

「カイリにとっては、一つの分岐点じゃ」

「分岐点?

 ねえ、おばあちゃんのこと、勝手に決めようとしてるのよ。

 そんなのおかしいよ」


「カイリはカイリとして……。ナナカや、さっきも言っただろう。

 わしは、ここで十分過ぎるくらい自由に生活して来たんだ。

 お前達のお陰だよ。だからこれからは、みんなの言う通りにするよ。

 ナナカにも、迷惑をかけることになるかもしれないなあ」


 ナナカには、サトが心なしか寂しそうに見えた。素朴な体が、いつもより小さく見える。

「迷惑どころか、いつも助けてもらってばっかりよ」

 ナナカの声は、思った以上に大きくなっていた。

 大好きなサトと毎日一緒に暮らせたら、すっごく嬉しいに決まっている。

 でも、サトがここを離れることを望んでいないのは明らかだった。


 カイリも、親達も、そんな当たり前のことが分からないなんて……。

「はっはっはっ、ナナカが来ると騒がしいなあ」


 ナナカはサトに会って、ますます荒来にいてほしい気持ちが大きくなった。

(おばあちゃんのことは、改めてみんなとちゃんと話さなきゃ……)


ナナカは話題を変えた。

「おばあちゃん、昨日の話の続きなんだけど、宝珠ってどこにあるのかな」


「う~ん……。」

 サトはゆっくりと目を閉じた。

「そうさなあ、何かが、風を遮っている。

 宝珠のありかを隠そうとしているようだね。

 どこ、とはっきりしたことは言えんなあ」

 サトは目を開け、温かみのある目でナナカを見た。


「富士山と桃香島が、繋がってるかもしれないって話、有名?」

 さっき、カイリがちらりと言っていたことだった。


「ああ。 桃香島か……。あそこにも龍にまつわる伝説があるよ」

 サトは、目を細めた。


「教えて、おばあちゃん」

 サトは、細めていた眼を開けて、じっとナナカを見た。しばらく黙ったままだった。


 ナナカは、サトに見つめられ、息をするのも忘れて固まっていた。

 また、きゅっとサトの瞳孔が糸のように細くなった気がした。

 一瞬のことだった。


「いいだろう……」

 ナナカは、ふうっと息を吐いた。

 気付かないうちに、緊張で体が強張っていたらしい。


 そしてサトは、目を大きく開けて、ぐるんと、一周させた。


 サトの昔語りが始まった。

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