21.家にて
翌日の8月6日。
カーテンの隙間から、光が差し込んでいる。
今日も、暑くなりそうだ。
ナナカはまだ自分の部屋のベッドに潜ったままだった。隣の部屋から、ぼそぼそと話し声が聞こえてきた。
昨夜のことだ。
(寒い……)
ナナカは、体の深部から冷え切っていて、サトの家に着くとすぐにお風呂に入った。それでも体は温まらなかった。
そして、心配するサトとの話もそこそこに、2階へ上がり布団に入った。
まだ、20時前だった。
頭が、がんがん痛む。
熱が上がっていた。完全に風邪をひいてしまったようだ。
そのまま、疲れもあってすぐに眠りについた。
でも、しばらくして、下からの話し声で目が覚めた。
楽々と、階段を上がってくる足音――膝の痛むサトではない。ふすまが開き、入ってきたのは。
「ナナカ、帰るぞ」
低く響く声で、心配そうに、兄カイリがナナカを覗き込んだ。
「カイちゃん」
そして今は、自分の部屋のベッドの中というわけである。
一晩ぐっすり眠り、すっかりナナカの熱は下がっていた。
健康には自信があり、少々の無茶なら、今までいくらでもしてきたナナカだ。
頑丈過ぎて、女の子らしくないくらいだ。こんなで大丈夫かなあと自分で自分が心配になることもある。
ナナカは昨日の夕方のことを思い出した。
今までは無茶をしてもどうにかなってきたけれど、昨日は、海で溺れて本当に死んでしまうんじゃないかと思った。
あの時、泳いでも泳いでも前に進まなくて、海水を飲み苦しかったのを思い出すとゾッとする。
兄のカイリだって、ヒイロだって、いつも側にいてくれるわけではないのだから、これからは、無謀なことはちょっぴり気を付けなくっちゃ(ちょっぴりだけだケド……)と思うナナカだった。
ベッドから顔を出し、時計を見た。午前8時。
いつもなら、もうとっくに朝食を終えている時刻だった。
夏休みになると、学校の時より早起きになるのは、小学校の時代、朝のラジオ体操に通っていた頃からの習慣になっていた。
今日は、早くから兄カイリの部屋に、ヒイロが来ているらしかった。
(ヒイロも、早起きだなあ)
時々、笑い声も交じって聞こえた。朝の稽古の後、来てくれたのだろう。
大好きな、ナナカ自慢の兄カイリ。
一日早く、昨晩美浦に帰って来た。
ナナカは、カイリが帰ってきたことを知らなかった。なので夜、寝込んでいるナナカを迎えに、サトの 家まで迎えに来てくれたことに驚いた。
カイリは、サトからの電話で、ナナカが熱を出したことを聞き、父の車で迎えに来てくれたのだった。
大学が夏休み入ってすぐに、合宿で免許を取得したのだそうだ。免許はやっと最近取れたばかりだと言っていた。
兄の運転する車の揺れは心地良かった。いつの間にか眠ってしまったらしく、気づいたら朝で、自分の部屋のベッドの中にいた。
安心感から、深く眠り込んでしまったのだ。
コンコンと部屋の扉をノックするのが聞こえた。
「は~い……」
ナナカは、再び掛け布団に潜った。
「ナナカ、俺だけど」
部屋の外から、ヒイロの気遣わしげな声が聞こえた。
ナナカは、ちょっと顔を出した。
「起きてた?」
「うん、目は覚めてるよ」
「熱は?」
「平気」
「良かった」
ホッとしたような、ヒイロの声だった。
ナナカの胸は、ちくんとした。
昨日はヒイロに、海へ出ないって約束したのに、我慢出来ずネコミミ島まで行き、結果、熱を出してしまった。それだけでなく、溺れそうにもなった。
溺れそうになったことは、みんなには絶対ナイショだ。話したら、怒られるだけでは済まされないと思う。
ナナカは、そっとベッドから降りドアの前に立った。
ドアは開けず、そのまま扉に両手の平をそっと付けた。
「ヒイロ、ごめんね」
「なんでいつもそう暴走するんだ……。
あんまり心配させるなよな」
優しい声だった。ドキドキしたけれど、ヒイロが怒ってないようでほっとした。
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