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2.登校日

 8月4日、県立けんりつ翠嵐すいらん高校は、登校日だった。

 帰りのホームルームが始まる前の賑やかな教室では、真っ黒に日焼けして、笑った時の歯だけがまぶしく白く光っているクラスメートも大勢いた。

 ホームルームが始まってからも、みんな、どことなくそわそわしていた。


 ナナカは窓際の、後ろから2番目の席で、頬杖をついて外を眺めていた。


 小高い山の中腹にある、翠嵐高校の3階からは、眼下に街が広がり、その向こうには、海が見渡せる。

 広がる大パノラマは、ナナカのお気に入りだった。退屈な授業の時など、ぼんやり海を眺めていると、時間の経つのは、あっという間に感じられた。


 ここは、母の母校でもある。

「海って、いつも同じに見えるけど、365日、毎日違う色をしてるのよ。

 夏の海、冬の海、雨の日、そして曇りの日の光の加減。

 見てるとね、飽きないのよ~」


 どこか不思議な雰囲気の漂う母から、そんな事を聞いてから、よく教室から海を眺めるようになった。

 学校の日は、海の様々な表情を観察するのが、ナナカの日課になっていた。確かに母の言う通り、海の色は意識して見ていると、毎日違っていた。


 今日は、夏らしい、じりじりと焼け付くような陽射しだった。

 風はあまり吹いていないのだろう、海は波が穏やかだ。

 明るい水色の海は、触ったらゼリーのようにプルプルしていそうに見える。

 真っ白な入道雲は、空全体を覆い隠そうとするかのように、もくもくと立ち昇っている。

 

 窓の外。

 セミが、生き急ぐような大合唱を奏でている。

 

(ああ~、今日は、本当は、泳ぎたい気分なんだけどね)

 ナナカは大きく伸びをした。


 でも……。


「はい、みんな、プリントは行き渡ったわね」

 高校教師2年目の担任は元気いっぱいの女性で、ナナカはとても大好きだった。にこにこと、笑顔でみんなに語り出す。

 配られたプリントを、後ろの席の男子にも回した。


 彼は、いつも頬杖をついて窓の外を眺めていた。ナナカは、外を眺めるのは、授業が退屈な時と決まっていたが、彼は、違っていた。

 周りとの関わりを拒み、人を寄せ付けなかった。

 女の子顔のきれいな顔立ちなので、もう少し愛想がよければ、女子から人気が出そうなのになと、密かに思っているが、とても素っ気なかった。


「今配ったのは、進路の調査表で~す。

 まだ、1年生だから、はっきりと決められない人もいるかもしれないけど、2学期からは、数学と英語でクラス別授業も始まるので、ある程度は考えてきてね。

 これは、宿題にします」


 ナナカは、配布されたプリントを見た。『進路調査表』と、上に大きく書かれている。その下が枠になっていて、進学と就職に分かれていた。

 前の席の女子が、振り返った。

 彼女とは、好きなテレビ番組の話題で、いつも話が尽きなかった。


「ナナカ、進路って考えてる?」

「全っ然!」


 2人でコソッと顔を見合わせ、くすりと笑った。

 ナナカにとっては、今が、この毎日が楽し過ぎて、そんな先のことなんて、考えられなかった。

 高校生活は、刺激的で目新しいことばかり。

 ずっとずっと、永遠にこんな日が続いていったらいいのに……。


「夏休みも、まだまだあるし、その内考えるよ~」

 ナナカは、椅子の背もたれに体を預けながらのんびりと答えた。

 進路も考えなくてはならないけど。

 ……昨日の夢の事が気になり過ぎて、せっかくの登校日で、久しぶりにみんなと会えたのに、今日は上の空だった。


「そうそう、みんな、聞いて。来週、大流星群が見られるんだって! 花火大会の次の日、11日が一番すごいらしいけど、その何日か前から流れ星が見られるそうよ。


 空一面に、星が降るように流れるんだって。

 今年はね、天気さえよければ、すっごくたくさんの流れ星が見られるみたいだよ」


 担任は、目をキラキラとさせながら、シャワーのように降ったら素敵よねえ、と言った。

 教室が、少しザワつき出してきた。


「それじゃあ、新学期、みんな元気に学校に来てね」

「きりーつ、礼!」


 ナナカは、その声が終わるか終わらないかの内に、クラスメートや担任が驚くほどの早さで、風のように教室を飛び出した。あまりの早さに、後ろの席の男子も、目を丸くしていた。

 階段を、1段飛ばしで3階から一気にタタッと駆け下りて、下駄箱へ向かう。

 まだ、誰もいない1階の玄関ホールは、しんと静まりかえっていた。

 お気に入りの、リーガルの茶色のローファーに履き替え、上履きは袋に入れ、学校バッグにしまう。

 そして、弾丸のように、外へ飛び出した。


 学校の玄関を出ると、四方八方からセミの声が、じわじわナナカを攻め立てるように大音声を上げていた。

 白い太陽は、めらめらと刺すように、ナナカの肌を直撃する。……暑い!!!!

 とたんに、ぶわっと汗が噴出してきた。


 ナナカは、暑い夏が大好きだった。

 燦々と降り注ぐ太陽が、自分にエネルギーを与えてくれるような気がするのだ。


 空を見上げる――。

 空の青、そして、もくもくとすごいスピードで形を変える入道雲。

 ナナカの表情は、暑さもどこ吹く風で、決意にみなぎり、きらきらと輝いていた。


「よっお~し!」

 ナナカは、空に向かい右の拳を突き出した。


「やるぞ~!」


 言葉に出したら、ますます自分に気合が入った。

 そして、言うが早いか、急斜面を、猛スピードで、駆け下りていく。肩の長さで切り揃えられた健康的な黒い髪が、風にびゅんびゅんなびいた。


 目指すは、祖母サトの住む、荒来あらい町。

 翠嵐高校からは、徒歩で40分程度だ。

うだるような暑さと、空腹の中、学校から15分の琉河るかわ町にある自宅ではなくて、祖母、サトの家を目指す訳は、あの、夢にあった。


ナナカはとってもパワフルで明るい女の子です。

まだ始まったばかりの冒険を、応援してくださいね!(^^)!

私もナナカと一緒に楽しみながら書きたいと思います♪

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