18.進まない!
ナナカは、洞穴内の側面や地面などを丹念に調べてみた。
でも、特に変わったところや、何かの目印のような所はなかった。
「う~ん……?」
(何か、宝珠のヒントに繋がるものはないのかな……?)
ナナカは諦めきれなくて、さらに隅々まで調べた。
昔はよく、この中でヒイロや双子達、そして兄とも遊んだものだ。島を探検したりもした。
そういえば、大好きな兄のカイリは、明日帰省することになっている。夏休みの間、短い期間だけれど、美浦で過ごすために帰って来る。
宝珠のことで頭がいっぱいで、ヒイロに話すのをすっかり忘れていたナナカだった。
ヒイロは、カイリを慕っているので、帰って来ること知ったらとても喜ぶはずだ。
(後で、ヒイロに伝えなきゃ)
ヒイロは、もうそろそろ姉と合流できたのだろうか……。
「ひゃッ」
足元が冷やりとして、ナナカは驚いた。
洞穴内に、海水が入り込んできたのだ。
考えごとをしている内に、潮が満ちてきた。
探しているうちに、ずいぶん時間が経っていたらしい。
ナナカは、これ以上調べるのを諦めて洞穴を出た。
まだ、空は明るいものの、太陽は沈み、風が出始めている。
(今、何時位だろ?)
時計を持っていなかったので、時間は分からなかった。ナナカは荒来側に回り込むと、すぐに泳ぎ始めた。
(早く帰らないと、もう暗くなっちゃう)
荒来の磯まであと半分位、という所で、ナナカはある事実に気が付いた。
泳いでも泳いでもあまり進んでいない……。
潮の流れが変わったらしく、南の方に流され始めていた。さっきまで、あんなに海は穏やかだったのに……。風も強くなってきている。
冷静に泳ぎ続けたけれど、水をかいても、荒来との距離は少しも縮まらなかった。
平泳ぎからクロールに変えて、懸命に泳いでも、水を蹴っても、ちっとも前に進んで行かない。
どっと疲れが出て、段々勢いが落ちかけてきた。
(進まない……。全然!)
恐怖が湧いてきた。
こんなことは初めてで、焦りが大きくなる。
日が、暮れてきている。
海岸線の建物に、明りが灯り始めていた。
いつも、後先考えず、無鉄砲なナナカだけれど、今は死ぬか生きるかが懸かっている。焦る気持ちを必死で抑え、落ち着かなきゃ、と自分に言い聞かせた。
海水を飲んだ。辛い!
気を抜くと、町から遠ざかってゆく。全力で泳いだ。
(怖い……。磯に戻れなかったらどうしよう)
前へ! 前へ! と必死にそれだけを考えた。
(やった! 陸地に近付いて来た。でも、ここは)
やっとの思いで進んだと思ったら、波がぶつかり合っている。
……そう、三角波の起きるポイントだった。
――潮の流れに、飲み込まれる。
――何人もの死者が出ている!
(怖い……怖い!)
ヒイロの涼しげな顔が頭に浮かんだ。
(ごめんね、約束守んなくって)
段々腕が上がらなくなってきていた。ナナカはもうどれだけ海水を飲んだかわからない。
(パパ、ママ、カイちゃん……)
家族の顔も思い浮かんだ。
流れに巻き込まれないよう、慎重に進もうとするが、疲労で体が言うことをきかない。
「ゴボっ」
また大量に飲んでしまった。塩辛い。
息が出来なくなり、頭にカッと血が上る。
(もう、ダメ……)
その時。
「ナナカお姉ちゃん、おいらに掴まッて!」
突然、すぐ近くで男の子の声が聞こえた。
(だあれ? 私を知ってるの?)
ナナカに差し延べられた手は、小さかった。
意識が遠退いていく中で、ちらりと見えた小さな手には、水掻きあった……。
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