表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/95

18.進まない!

 ナナカは、洞穴内の側面や地面などを丹念に調べてみた。

 でも、特に変わったところや、何かの目印のような所はなかった。


「う~ん……?」

(何か、宝珠のヒントに繋がるものはないのかな……?)


 ナナカは諦めきれなくて、さらに隅々まで調べた。

 昔はよく、この中でヒイロや双子達、そして兄とも遊んだものだ。島を探検したりもした。


 そういえば、大好きな兄のカイリは、明日帰省することになっている。夏休みの間、短い期間だけれど、美浦で過ごすために帰って来る。

 宝珠のことで頭がいっぱいで、ヒイロに話すのをすっかり忘れていたナナカだった。


 ヒイロは、カイリを慕っているので、帰って来ること知ったらとても喜ぶはずだ。

(後で、ヒイロに伝えなきゃ)

 ヒイロは、もうそろそろ姉と合流できたのだろうか……。


「ひゃッ」

 足元が冷やりとして、ナナカは驚いた。

 洞穴内に、海水が入り込んできたのだ。

 考えごとをしている内に、潮が満ちてきた。

 探しているうちに、ずいぶん時間が経っていたらしい。

 ナナカは、これ以上調べるのを諦めて洞穴を出た。

 まだ、空は明るいものの、太陽は沈み、風が出始めている。


(今、何時位だろ?)

 時計を持っていなかったので、時間は分からなかった。ナナカは荒来側に回り込むと、すぐに泳ぎ始めた。


(早く帰らないと、もう暗くなっちゃう)


 荒来の磯まであと半分位、という所で、ナナカはある事実に気が付いた。


 泳いでも泳いでもあまり進んでいない……。


 潮の流れが変わったらしく、南の方に流され始めていた。さっきまで、あんなに海は穏やかだったのに……。風も強くなってきている。


 冷静に泳ぎ続けたけれど、水をかいても、荒来との距離は少しも縮まらなかった。

 平泳ぎからクロールに変えて、懸命に泳いでも、水を蹴っても、ちっとも前に進んで行かない。

 どっと疲れが出て、段々勢いが落ちかけてきた。


(進まない……。全然!)


 恐怖が湧いてきた。

 こんなことは初めてで、焦りが大きくなる。


 日が、暮れてきている。


 海岸線の建物に、明りが灯り始めていた。

 いつも、後先考えず、無鉄砲なナナカだけれど、今は死ぬか生きるかが懸かっている。焦る気持ちを必死で抑え、落ち着かなきゃ、と自分に言い聞かせた。


 海水を飲んだ。辛い!

 気を抜くと、町から遠ざかってゆく。全力で泳いだ。

(怖い……。磯に戻れなかったらどうしよう)

 前へ! 前へ! と必死にそれだけを考えた。


(やった! 陸地に近付いて来た。でも、ここは)

 やっとの思いで進んだと思ったら、波がぶつかり合っている。


 ……そう、三角波の起きるポイントだった。


 ――潮の流れに、飲み込まれる。

 ――何人もの死者が出ている!


(怖い……怖い!)

ヒイロの涼しげな顔が頭に浮かんだ。

(ごめんね、約束守んなくって)

 段々腕が上がらなくなってきていた。ナナカはもうどれだけ海水を飲んだかわからない。


(パパ、ママ、カイちゃん……)

家族の顔も思い浮かんだ。

 流れに巻き込まれないよう、慎重に進もうとするが、疲労で体が言うことをきかない。


「ゴボっ」

また大量に飲んでしまった。塩辛い。

息が出来なくなり、頭にカッと血が上る。

(もう、ダメ……)


 その時。

「ナナカお姉ちゃん、おいらに掴まッて!」

 突然、すぐ近くで男の子の声が聞こえた。


(だあれ? 私を知ってるの?)

 ナナカに差し延べられた手は、小さかった。

 意識が遠退いていく中で、ちらりと見えた小さな手には、水掻きあった……。


最後まで読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ