17.危険な海
「急がなきゃ」
ナナカは、サトの家にしまってあった自分の水着に着替えた。
ヒイロにはああ言ったものの、ネコミミ島に向かうつもりなのである。
確かに夕暮れ時が近付きつつあった……。
でも、ナナカだって泳ぎは大得意だ!
ネコミミ島まで、(ヒイロには敵わないけれど)他の人より早く泳げる自信はあった。『龍穴』を調べて帰って来るくらいなら、日暮れ前に出来る。楽勝に思えた。
あの怪しげな伝海達に先を越される前に、早く宝珠を見つけ出したい。
(それに……!)
それにこんな面白いことを、明日まで先延ばしにするなんて、我慢できない! 強いその思いが、ナナカをつき動かしていた。
機織姫のためにも、早く探し出したかった。
ナナカは自分で、何かに挑戦し、最後までやり遂げてみたいのだ。
わくわくするような、何かを!!
今日、学校で配布された進路の調査表。
実は、あれがさっきから気になっていた……。
今が、とても楽しい。
これからも、こういう風に楽しい日々が、いつまでも続いて欲しい。
これからも、ずっと、ずうっと、永遠に……。
でも、だんだん耳の遠くなってきた、祖母。
ずっと一緒と思っていたのに都会へ行ってしまった、大好きな、兄カイリ。
ヒイロも、地元を離れたい、と前に話していた。
また、学校の同じクラスの友人達みんなも、ちゃんとこれから先のことを考え始めている。
みんなに、置いて行かれたくない……。
でも、やりたいことも、進みたい道もわからなかった。焦るけど、どうしていいかわからなくて、気持ちがもやもやしていた。
ナナカは性格上、中途半端でいることはつらかった。
いつもはっきり、すっきりとしていたいのである……。
今はただ、目の前のことを、一つ一つ挑戦していく、そう思った。
その連続の中で、何か見えてくるものもあるだろう。
何かに、熱中したかった!!
ナナカは、急いだ。
暗くなってしまうので、あまり遅くなる訳にはいかなかった。
準備が終わり、サトにちょっと磯で遊んでくるねと断ってから、返事も聞かずに慌ただしく外へ向かった。
サトの家の玄関を出ると、すぐに磯の香りが風に乗ってきた。
海は、近い。
すぐ側だ。
何羽ものカモメが、餌を求め、ばさばさと空を飛んでいる。
時刻は、もうすぐ16時30分になる所だった。暑さも和らいでいる。
ナナカは磯へ下り、軽く手足を伸ばすと、パシャパシャと海へ入った。今日は、打ち寄せる波も穏やかだ。
海は、やはり気持ち良かった。
まだまだ空は明るい。
でも、もう爽やかな風が吹き始めていた。
美浦は、夕方になると風が変わり、日中の暑さが嘘のように気持ち良く、過ごしやすくなる。
そんな中、ナナカは、正面にある『ネコミミ島』に向かって泳いでいった。
荒来を磯沿いに南下して進んでいくと、あの『三角波』の浜がある。そちらの方へは、絶対流されないよう、十分気を付けて前へ向かった。
『ネコミミ島』に到着した
ナナカは、明るい内に難なく『ネコミミ島』に上陸することができ、ひとまずホッとした。
そして、裸足だったので、足を傷つけないよう注意深く島の裏側の『龍穴』を目指した。
「着いた!」
『龍穴』は、小さな横穴だった。
大人が5~6人も入ったら、ぎゅうぎゅうの狭さだ。
荒来では、富士山が噴火した時に飛んできた大きな溶岩がぶつかって、元からあった島と合体した、と言われているが、けしてそんな事はなく、遥か昔に起こった地殻変動で出来た島だった。
穴の内部には、はっきりと地層が見える。




