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14.ネコミミ島

 ナナカは幼い頃から明るくて、過ぎる位にいつでも活発で、元気な女の子だった。


 戦いにつぐ戦いで疲弊したヒイロにとって、その明るさは心の闇を明るく照らし、気持ちを和ませてくれた。

 ナナカの真っ直ぐな信頼に応えることは、ヒイロに限りなくよい影響となっている。


「ナナカ、あいつら、何を言ってたんだ。

 その宝珠っていうのは、何だ?

 カイリ兄がいない間に何かあったら、俺、カイリ兄からどう言われるか分かんないだろ?」


 ヒイロは、涼やかな眼差しを向けた。

 その澄んだ目は、何があったのか全部話してくれと優しく物語っている。

「うん」

 ナナカは最大の協力者になるだろうヒイロに対し、嬉しくなって力いっぱい頷いた。

 ナナカも、早く話したくて、さっきからうずうずしていたのだ。ナナカは、カルピスを、飲み飲み、

「あのね……」と、ヒイロに木の櫛を見せた。





 話し終えると、ヒイロは、腕を組んで考え込んでしまった。

「う~ん……」

 いきなりの突拍子もない内容だったので、にわかには信じられない、とでも言いたげなヒイロの表情だったが。


「ほっとくと、どこに暴走するかわからないからな。

 夏休みだし、ナナカに付き合ってやるよ」

と、ナナカに爽やかな笑顔を向けた。半信半疑ではあったが。


「良かった、ヒイロありがとう」

 ナナカは、満面の笑みを浮かべた。


 ヒイロは、ナナカのように全てを事実として信じていいのか分からなかった。

 でも、ナナカは一度こうと決めたら、絶対に曲げない性格なので、その玉を見つけ出すまで、また危ない目に遭うかもしれない。言葉に出さなかったが、ヒイロはそれが心配だった。

 ナナカの声は、鼻にかかっていて、少し舌っ足らずになる時があった。その話し方で一生懸命語る姿に、ヒイロは滅法弱かった。


「さっきの坊さんと、ナギラって奴のことが気掛かりだ。坊さんはよく見かけるけど、あいつは初めて見たよ。

 こんな狭い地域で、一度も見かけなかったってことは、最近急に現れたんだ。なぜか実戦に慣れていて、ものすごく強い。どういう奴なんだろう」


「近所のヒイロが見たことないなんてね、何なんだろうあの人?

 それはそうと、まず、ネコミミ島に行ってみようと思うの。

 何か、ヒントが見つかるんじゃないかと思って。もしかして、そこに、宝珠があるのかも……」

 ナナカは、目を輝かせてヒイロに言った。


「ああ、洞穴と繋がっているって、ばあちゃんが言ってたんだっけ?

 でも、俺達だって子どもの頃から『ネコミミ島』は探検し尽くしてるだろ。あそこにそんな物あるか?」

「そうだけど、今までは知らなかったから見つけられなかったのかもしれないよ」


 『ネコミミ島』とは、正式名は、『石此せきし島』という、全長300メートル、幅120メートル程のごつごつした岩山で、荒来の磯から、直線で約1キロの所にある。岩の間から、低木が青々と生い茂っている無人島だった。


 岩山は、ネコのミミのように、2箇所がぎざぎざと尖って突き出しているので、地元では『石此島』という正式名より『ネコミミ島』という呼び名が一般的だった。

 そして、島の裏側には『龍穴』と呼ばれる横穴があった。


 『ネコミミ島』は、ナナカ達が毎年夏に遠泳に行く島だった。

 小学校高学年の頃、泳いで島まで行けるようになった時は、嬉しくてよく遊びに行っていた。


「もう夕方になるから、明日にしようぜ。明日、一緒に調べに行こう」

 ヒイロが壁の時計に目をやった。

 16時になる所だった。

 真夏で、日が長いとはいえ、じきに夕暮れがやって来る。


 しかし、ナナカは首を横に振った。

「だって、さっきのおばあちゃんの話、伝海ってお坊さんに聞かれちゃったと思うの。

 早く行かないと先を越されちゃう」

 ナナカは、今にも立ち上がろうと、半分腰を浮かせた。


 ナナカは、この不思議な冒険のことで、頭がいっぱいになっていた。

 機織姫の寂しそうな瞳が、今日は何度も頭をよぎっていた。あの時、無言の悲鳴が苦し気に聞こえ続けていたような気がした。


(あんなにきれいな人が悲しそうにしているなんて、勿体ないし可哀そう!)

 姉妹が欲しかったナナカは、悲しみに沈んだ中で、決然と自分に宝珠のことを語る機織姫の姿に心を大きく衝き動かされていた。


 あの、きれいなお姉さんを助けたい……。

 救いたい!

 宝珠を早く捜し出したい!!

 そう思うと、気が急いた。


「ナナカ……。ったく、一度言い出したら、絶対聞かないからな。

 ……よし、俺が一人で見に行って来るよ」

 ヒイロなら、余裕で戻って来るだろう。でも。


「えっ、ヒイロがぁ」


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