老夫婦な2人
「スイートポテトを作ろうと思って」
て、私がサツマイモ片手に言うと、素敵女子のはずのまぁちゃんが、寝起きでまだあんまりツヤツヤしてない髪をさらにグシャッて手でかき上げて、
「はぁ?」
「だから、スイート、甘い芋」
「それは知ってるわよ!じゃなくて、なんで穏やかな日曜日の朝8時に甘い芋?てかキッチンジャック⁈」
まぁちゃんはキレた。今日はいつも付けてる凶器みたいに長い睫毛が不在だから、迫力にかける。
あ、私の視線に気づいて更に怒り心頭。
「や、バレンタインがもうすぐあるでしょ」
私にしては珍しく早口で言いながら、大っきいアクションで芋を振り回した。
おかっぱ頭の百五十センチの身長。
見下ろす巨乳に美人顔な鼻高いまぁちゃん。
滑稽な私に多少眉尻が下がり、冷静な口調になって、
「バレンタインは普通チョコでしょ。何?いくら夢箱詰め工場しかないような島でもチョコぐらい売ってるわよ。それともそこまで爺なの?」
「むっ、暴言だ」
「朝8時に起こして、キッチンハイジャック手伝え言う琴子には言われたないわ」
微妙な関西弁入るまぁちゃん。
ちなみに琴子は私の名前だ。
ついでにもっとちなみにを入れるなら、夢箱詰め工場とは、私たちの仕事場だ。
島丸々一個がその工場の為に買い取られた。
三十年前のことらしい。
都心から船で三時間四十分。
カモメとか、アホウドリとかの住処は阿呆な名前の工場に奪われて、もくもく伸びる煙は白い雲と同化する。
空と地上を繋ぐ煙はある意味夢の模様だけれど、現実はただの自然破壊だ。
私たちはその工場の隣にある寮の廊下で、まぁちゃんは身体半分を六畳ワンルームの部屋に入れて、芋の話しをしている。
「たー君、スイートポテトに目がないの。お店にさ、冷やし中華始めました。ばりにチラシ貼ってると、目が変わるの。キラキラするの」
「ごめん、想像し辛いわ。てか、珍しくやる気ね。老夫婦片割れ」
「その年寄り扱いやめてよ」
まだ若い恋人同士に。
目で訴えると、まぁちゃんは仕方ないと言う風に腕をグルリと回して、戦闘準備に入った。