§.5 【再会】
ノワール学院。第八教室。
その日の授業が終わると、カルロが声をかけてきた。
「クロノー、帰ろうぜ」
「望むところだ」
「お前、ちょっと言葉遣い独特なのな」
今日一日で、打ち解けたクロノとカルロは、二人で下校することにした。中立都市コルンツェルで最も栄えているノワール商店街の大通りを、彼らは他愛もない雑談に花を咲かせながら歩いていく。
「そういえば、友達はどんな感じだ?」
すると、クロノは答えず、カルロをただ見返した。
「なんだ?」
「カルロは容易く友達ができそうだと思ったのだ」
「そりゃあ、まあ、俺はわりと、そうかもしれないな」
カルロは若干気まずそうに笑う。
「恐らく、時間がかかるだろう」
「良さそうな奴はいたか? 俺でよかったら、手伝うぜ」
調子よく彼は言った。
不意にクロノは立ち止まる。
「今度はどうした?」
「あーーーっっっ!!!」
びっくりしたような可愛らしい声が響き渡る。
カルロが振り向けば、そこにはクロノを指さしている金髪の少女、シャル・アーリアンがいた。
「やっぱりクロノ君じゃん! なんでなんで? どして? その制服、ノワール学院のだよね?」
「転入してきた」
「えー、そうなんだぁ。やばっ。偶然がすごいっ!!」
突然の再会に驚きながらも、シャルは嬉しそうに笑っていた。
「ちょっと待って。カルロ君と一緒ってことは、同じクラス?」
「そうだ」
「じゃあ、アタシと同じじゃんっ!」
それを聞き、クロノはふと気になったことがあった。
「今日は――」
「天気良かったじゃん。やっぱり、草原とか行きたくなるよねー」
問うより先に、軽い調子でシャルが言った。サボりのようだ。
「あーっと……」
事態に追いついていない様子で、カルロは二人を見た。
「知り合いだったのか?」
「うん。最近ね。会ったんだー」
「へえ。どこで? シャルちゃん、ずっとコルンツェルにいたろ」
「あ……!」
しまった、とでも言わんばかりにシャルが声を上げた。
「なんだ? なんか、まずいのか?」
「それは秘密じゃん。ね、クロノ君」
お願いするように、シャルがクロノの顔を覗いてくる。
「いやいや、シャルちゃん。クロノを巻き込むなよ。どうせいつも大したことじゃないんだから」
「えー、なにそれっ、ひどくないっ? 大したことあることもあるしっ!」
ぷくーっと頬を膨らませて、シャルが抗議している。
「あんまり気にしなくていいんだぜ」
と、カルロがクロノに言う。
「つまり、降ったサイコロが彼女だったということだ」
「は?」
意味がわからないといった風にカルロの顔が疑問に染まった。
「アタシ? サイコロ? 」
シャルも小首をかしげながら、自らを指さしている。
「まあ、なんでもいいんだけどさ。おっと。寄るところがあるから、俺はここら辺で。じゃあな」
「うん。ばいばーい」
カルロは大通りを曲がり、先を急ぐように走っていった。
「ありがと、クロノ君。話し合わせてくれて」
「あの樹海は、今では魔神王ゴルロアーズの領土のようだ。無断で立ち入ったことが知られれば、問題となるだろう」
「それ、クロノ君もじゃん。共犯共犯」
と、シャルはケラケラと笑った。
「ところで、どして転入してきたの?」
「サイコロを振ろうと思っていた」
うんうん、とシャルは真面目に聞いている。
「目を覚ましたとき、一番最初に出会ったのが、俺を利用しようとする者だったなら、その陣営を片付ける。木こりに出会えば家を建て替える。狩人に出会えば料理を作る。学生に出会えば、学院に行く。そして――」
「それでノワール学院に来たのっ。行動力の塊じゃん!」
思いも寄らない理由だったか、シャルはテンションが上がったようだ。
「いいや。どちらかと言えば、意欲に乏しい」
「そかなー?」
と、シャルは立ち止まり、路地を指さした。
「こっちから行ってもいい? クロノ君、家どっち?」
「方角は合っている」
「じゃ、いこー」
狭い路地を二人は歩いていく。
大通りとは違って薄暗く、人気はまったくなかった。
「じゃあさ、ノワール学院でなにするかはもう決めた?」
「愚問だ」
「なになにっ? なにす――」
シャルの笑顔が瞬く間に消え、鋭い視線を前方に向けた。
「た、助けてくれぇーっ!!」
一人の老人が、大男に襲われている。鋭いナイフが、思いきり振り下ろされた。
飛ぶような勢いで走ってきたシャルが、二人の間に割って入る。老人を庇うように抱きついたシャルの手が切り裂かれ、赤い血が散った。
「なんだ、女ァ! 殺されてえのかっ!!」
倒れ込んだシャルめがけて、大男はナイフを突き立てようとする。
その手首をクロノがつかんだ。
「蘇生もできない輩が、命を軽く扱うのは不可解だ」
「おい」
ギロリ、と大男はクロノを睨む。
「離せよ。てめえから、殺しちまうぞ」
「なぜ不可能を口にするのだ?」
大男が思いきり力を込めるが、クロノはビクともしない。
「俺は全知全能だ」
「ほざけぇぇぇっっ!!!」
怒声とともに、大男の額から一本の角が生えた。筋肉が硬質化し、肥大して、服が弾け飛ぶ。
銀の体毛と、鋭い爪、翼を生やした姿に変わった。
「なにこれ? オーガの角と、ウェアウルフの体、デーモンの翼。混ざってる……?」
大男の変貌を見たシャルが、驚いたようにそう口にした。
「なぁにが全知全能だぁっ! 捻り潰してくれるわつ!!」
大男は反対の手でクロノの頭をわしづかみにすると、そのまま膂力に任せて、押し込んだ。
「寝ろ」
クロノがその拳で、大男の腹を打つ。くの字に曲がった体は一瞬、宙に浮き上がり、そのまま路地に崩れ落ちた。
「すごっ……」
大男をあっという間に倒したクロノを見て、シャルは感心した。
「おじーちゃん、大丈夫? 怪我とかしてない?」
彼女は老人にそう声をかけた。
「お、おぉう。ありがとうのう、学生さんたち。おかげで助かったわい」
老人はぺこりと頭を下げた。
「おじーちゃん、お髭すごいじゃん。立派!」
楽しそうにシャルは、老人の長い髭を指さした。
「お、おう。自慢の髭じゃ」
少し照れながら、老人は笑った。
「コルンツェルでも路地はちょっと治安が悪いんだ。遠回りでも、大通りを歩いた方がいいよ」
シャルとクロノは、大通りまで老人を送っていった。
「じゃーねー、お髭のおじーちゃん。気をつけてねー」
去っていく老人に、シャルは大きく手を振る。
「そういえば、クロノ君は怪我してない?」
くるりと振り返り、シャルはじっとクロノを見つめてくる。
「切られたのはシャルの方だろう」
「あー」
と、シャルは、ナイフで切られた左手を見せた。その傷がみるみる塞がっていき、やがて完全に消える。魔法を使っていないにもかかわらずだ。
「内緒だよ」
人差し指を唇の前に持ってきて、彼女は悪戯っぽく言う。
「心配無用だ。口は堅い」
人間にもかかわらず、なぜそれほどの自然治癒力を持っているのか。クロノは特に事情を聞くことなく、そう答えていた。
「じゃーさ、口の堅いクロノ君にちょっとつき合ってもらいたいところがあるんだけど、いいかな?」
「どこに行くのだ?」
シャルは悪戯っぽく笑うと、からかうように言ったのだった。
「お・と・な・の・い・く・と・こ・ろ」
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