§.4 【友達】
ノワール学院。第八教室。
生徒たちがざわついていた。
「あいつ、誰だ?」
「すごい、真っ白の髪……」
「大人っぽいよね、本当に同い年なのかな?」
「ちょっと、目つきが怖いけど」
担任の教師マルコと一緒に入ってきたクロノに注目が集まっている。
「皆さん、お静かに」
マルコが人差し指で眼鏡をクイッと持ち上げる。
「時期外れですが、転入生を紹介します。クロノ君、自己紹介を。名前と種族を教えてください」
クロノが一歩前へ出て、口を開く。
「クロノ・グランベフィウス。人間だ」
すると、生徒たちがまたざわつき始めた。
「人間? あんな赤い目の人間いるんだー」
「ヴァンパイアみたいだよな」
「えー、あたしは、竜人っぽいって思ってたけど」
「皆さん、お静かに」
マルコが圧をかけると、生徒たちはまた黙った。
「クロノ君。一番後ろの席が空いているので、そこに座ってください」
「はい」
言われた通り、クロノは着席した。
隣の席には、色とりどりの貝殻が散乱している。だが、誰も座っていない。休みなのだろう。
「それでは、授業を始めます。魔法理論Ⅱの二六ページから」
◇
一時間後――
授業はつつがなく終わり、休み時間。生徒たちが、クロノの様子をうかがっていた。
「ねえねえ、クロノ君に声かけてみる?」
「え、うーん、でも」
クロノは鋭い目つきで、教室全体に圧をかけていた。目が合った者に襲いかかってくるのではと思うほどの眼光である。
「怖くない……?」
「……だよね。機嫌、悪いのかな?」
珍しい時期の転入生だ。クラスメイトたちもクロノに興味があり、聞きたいことは沢山あった。
しかし、彼の眼光から放たれる圧により、彼らは声をかけそびれている。
そんな中、一人の男子生徒がクロノに近づいていった。
「よっ、転入生。そんな親の仇でも見るような目をして、どうしたんだ?」
少し長めの茶髪で、人当たりの良さそうな顔立ちだ。クラスの中では大人びており、爽やかな笑みが印象的だった。
「親の仇……? そう見えるか?」
「登校前に、暗殺でもしてきたって言われたって納得するぜ」
冗談交じりに男子生徒が笑うと、
「隠すようなことではないので、言っておく」
「え……?」
クロノは言った。
「俺は、黙っていると人相が悪いのだ」
「マジで隠すようなことじゃねえな、それは」
男子生徒がそう言うと、僅かにクロノは笑みを覗かせた。
「俺はカルロだ。カルロ・ライアン。よろしくな」
カルロは自然とクロノの前の席に座った。
「というか、クロノはなんでノワール学院に転入してきたんだ?」
「友達を作るためだ」
「友達?」
答えが意外だったか、カルロは興味深そうに目を見開いた。
「友達を作るだけなら、別にどこの学院でもよかったろ?」
「サイコロを振って、出た目に従ったようなものだ」
「はあ? お前、変わってんな」
クロノの物言いに、思わずカルロは笑ってしまう。
「どんな友達が欲しいんだ?」
軽い調子で、カルロが尋ねる。
「やはり、価値観が合うといい」
「価値観の他には?」
「そうだな」
少し考える素振りを見せてから、クロノは答えた。
「できれば、強い方がいいな」
「そりゃあ、また物騒な話だな」
「弱い友達はすぐ死ぬ。友達は長生きがいいからな」
「いやいや、別にすぐは死なないだろ。そりゃ、獅子の皇帝と魔神王の軍なんかがやり合ってる戦場に行けばそうだろうけどさ」
「できればだ」
「ふーん。何人ぐらい欲しいんだ?」
そうカルロが問うと、大真面目な顔でクロノは言った。
「一〇〇人できるかな、と思っている」
「一〇〇人っ!? そんなに作ってどうするんだよっ?」
驚きのあまり、カルロは声が大きくなっていた。
クロノはきょとんとした顔で、
「皆で遊んだら、楽しいだろう」
さも当然のように、言った。
「そりゃあ、まあなぁ」
「ほらな」
「ドヤ顔してんじゃねえ」
得意げだったクロノの頭をつかみ、カルロが髪をぐしゃぐしゃにする。
その時、ゴーン、ゴーン、と鐘の音が鳴った。予鈴である。
「おっと。次は魔法訓練か。じゃ、また後でな」
「ああ」
自席に戻る途中、カルロは深刻な表情でぽつりと呟いた。
「一〇〇人……」




