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§.20【手がかり】


 コルンツェルの商店街を、クロノ、シャル、カルロは横に並んで歩いていた。


「――で、亡くなった友達の冤罪を晴らすために、証人に話を聞くってことか」

「うん。そんな感じ」


 道すがら、シャルはカルロに事情を説明していた。


「で、証人は地下闘技場の王者、ルーク・アビデーっと」


 カルロは僅かに眉根を寄せた。

 その様子を見て、シャルは言う。


「カルロは、ルークさんが所属してるっていうロゼッタ闘士団のことを心配してるんでしょ? 魔神王ゴルロアーズとつながりがあるって噂だもんね」

「……まあな」


 歯切れが悪そうにカルロは言う。


(ロゼッタ闘士団は間違いなくゴルロアーズの息がかかっている。だが、奴らについては我々の監視がついている。泳がせているんだ)


 立場上、カルロはロゼッタ闘士団と魔神王のつながりを口にするわけにはいかなかった。


(だが、心配だな。正直、ルークには関わらない方がいい)

「そんな顔しなくても大丈夫だって。こう見えて、クロノ君はすっごく強いんだよ」


 カルロはそこでようやく気がついたようにクロノに視線を向ける。


(なんだ。全知全能の虐殺王が一緒なら、心配することもないよな。シャルちゃんを配下に加えたいなら、いざとなれば助けてくれるだろう)


 そうカルロは考えた。


「じゃ、ルークと会うときは絶対クロノを連れて行けよ」

「え?」


 シャルはパチパチと瞬きをした。

 そうして、スリスリとカルロのそばに寄っていく。


「……き、気を遣ってくれたのかもしれないけど、まだそういうんじゃないし」


 恥ずかしそうにシャルは小声で言った。


「なに言ってんだ?」

「え?」


 きょとん、とした後、みるみるシャルの顔が朱に染まっていく。


「あ、あー、そっか。危ないもんね! 念のためだよね! そうだよね! わかってるわかってる!」


 取り繕うように彼女は言う。

 怪しい反応のクラスメイトを、カルロは訝しんでいる。


「ならば、ルークに会いに行くときは、必ずともをしよう」


 と、クロノが言った。


「で、でも、クロノ君も用事とかあるでしょ?」

「ない」


 シャルは目を丸くする。そうして、身を小さくしながら、か細い声で言った。


「じゃ、じゃあ……お願いしてもいい?」

「望むところだ」


 そう口にして、クロノは笑う。

 ちょうど、目的地の酒場――妖精たちの宴に到着した。


    ◇


 地下闘技場。控室。


「――オラン神父を殺したのは、リュカ・エンディミオンだ。俺は実際にこの目で見たからな」


 地下闘技場の王者ルークは、そのように語った。

 だが、シャルに動揺は見られない。予想していた答えなのだろう。そうでなければ、そもそもリュカが有罪になるはずがないからだ。


「でも、その頃、ルークさんはリュカと面識はないんだよね」

「ああ」

「後から、魔導裁判所でリュカの魔法映像を見せられて、神父を殺した犯人だって思ったってことだよね?」

「そうだ」

「絶対にリュカだっていう証拠があったの? 魔法でリュカの外見に似せることもできるし、コルンツェルには色んな種族の出入りがあるから」

「俺の剣はリュカの肩を切った。魔法なら、その瞬間に変身が解けるはずだ」

「……でも、リュカには神父を殺す理由がないし……」


 独り言のように小さくシャルは呟く。


「ルークさんは、その時、リュカとなにか話した?」

「…………」


 答えづらかったのか、一瞬、ルークは視線を反らした。


「話したの? なんて言ってた?」


 小さく、ため息をつき、ルークは言った。


「あんまり深入りしない方がいいんじゃないか? 無実を証明できたところで、死んだお友達はどうせ帰ってこない。聖女様が信じてるんだったら、もうそれで十分だろう」

「死んだから、もう十分?」


 まっすぐルークを見つめる彼女の瞳には、静かな怒りが点っている。


「同じだよ。生きてても、死んでても。アタシはリュカの親友。なんにも変わらない。知ってることを教えて」


 一向に引くつもりのないシャルに、ルークはため息をつく。そうして、仕方がないといった調子で言ったのだ。


「リュカ・エンディミオンはこの街で眷属を増やそうとしていた」

「……え?」


 予想だにしない言葉だったか、シャルの表情に動揺が浮かぶ。

 それを彼女は完全に否定することはできない。なぜなら、彼女自身がリュカの眷属だからだ。


「オラン神父を眷属にするために、血を吸っていた。彼はそれを阻止するために、自害したのだ」

「……どうして、眷属を?」

「教会に眷属を増やし、裏から実権を握ろうとしていたらしい。何人かの信徒が被害に遭っている」

「そんなはずないっ!!」


 反射的に、シャルは叫んでいた。


「リュカがそんなこと、する理由がないじゃんっ!」

「俺に言われても困るな。聞いた話だ。理由は知らん」


 子どもの駄々にはつき合ってられないといった口振りだ。


「……誰に聞いたの?」

「その裁判の判決を下した、デュメル法賢者だ。まあ、デュメルの野郎ももう死んでいるがな」

「病気で亡くなったって……?」

「それは混乱を防ぐための嘘だ。殺されたんだよ、リュカにな」


 リュカは目を丸くする。


「真祖のヴァンパイアの力ってのはすげえらしいな。頑丈な牢獄を抜け出し、死刑判決を覆させるためにデュメル法賢者を眷属にしようとした。まあ、デュメルにも自害されたんで、結局死刑にはなったんだがな」

「……ルークさんは、どうしてそのことを知ってるの?」

「ああ?」


 不機嫌そうに彼は凄んだ。


「知ってると思ったから、聞きに来たんだろ。ロゼッタ闘士団(うち)の後ろはデカい。配下が巻き込まれれば、調べるに決まっている」


 魔神王ゴルロアーズの直轄という噂はどうやら間違いない、とシャルは思った。


「おめえらの目的はなんだ? 聖女様が動いてるなら教会絡みかと思ったが、そっちの兄ちゃんは知らねえ」


 ルークはクロノに視線をやった。


「知らねえが、只者じゃないことはわかる。一年前の事件を探ってどうするつもりだ?」

「アタシはただ――」

「友達より優先することなどこの世に存在しない」


 クロノは堂々と言ってのけた。


「……そんな嘘を信じられると思うか? お前たちはどこの組織の属していて、誰の命令で動――」

そんな嘘(ヽヽヽヽ)?」


 ルークは絶句した。

 僅かな、そう、ほんの僅かな怒気が言葉に込められているだけだ。にもかかわらず、体が鉛のように重くなったのだ。全身の毛が逆立ち、寒気がする。鼻先に刃を突きつけられているかのように、彼はまるで生きた心地がしなかった。


「答えろ。お前は友達より、なにを優先するのだ?」


 答えを間違えれば殺される、そんな予感がルークを襲った。降参を示すように両手を上げて、彼は答える。


「う、疑って悪かった。勿論、友達が一番だ」

「そうだろう」


 そう口にして、クロノは笑う。


(この間もそうだったが、こいつ、友達にだけやたらこだわりやがる。演技にも見えねえ。まさか、本気で言ってるのか?)


 ルークは改めて、大真面目な顔をしているクロノを見た。


(こんな化物みてえな力を持ってやがる奴が、四王の誰とも無関係だってのは信じられねえが……)


 ルークはなおも半信半疑だった。クロノの言葉は、彼の常識では凡そ考えづらいことなのだ。


「シャルは友達の無念を晴らしたいだけだ。それ以外の目的はない」

「……それは信じよう、だとしても、俺が見たことは間違いないし、それ以外はぜんぶ聞いた話だ。本当のところを確かめようにも、デュメル法賢者はもういない」


 ルークはそう答えた。


「真実を知りたいなら、一つだけ方法がある。だが、おすすめはしない」

「なに?」


 シャルが聞く。


「全知法廷って、知ってるか?」

「なんだそれ?」


 初めて聞いたといった風に、カルロは言った。


「全知、すなわち全てを知ることができる法廷だ。そこでは裁けない者は存在しないと言われている」

「はあ? そんな都合の良いもんがあるわけ――」

「知ってる」


 シャルが言った。


「アタシもずっとそれを捜してた。見つかれば、リュカの冤罪を晴らせると思ったから」

「全知法廷の在処を知っている者がいる。ミシェル・クライトンという法賢者だ」


 ルークは羊皮紙に羽根ペンを走らせる。描かれているのは簡単な地図だ。


「隠居して、この秘境に住んでいる。行くんなら今日は無理だ」

「どうして?」

「朝靄がかかってるときしか、ここまでは辿り着けない。早朝に出直すんだな」

「わかった。ありがとう」


 羊皮紙を受け取り、シャルは頭を下げた。


「ま、あんまり期待するなよ。ミシェルは偏屈だ。全知法廷の場所を教えてもらうには、魂を差し出さなければならないって噂もあるぐらいだしな」


 ルークの言う通り、明日の早朝に地図の秘境に向かうことに決め、クロノたちは帰宅することにした。


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