§.16【不自然な転入生】
「ドムドラッド国から転入してきたイフリートのマシューである。炎のように熱い男だ!友達募集中! 皆の者、よろしく頼もうぞっ!」
翌日のノワール学院、第八教室での出来事だった。
虐殺王クロノ・グランベフィウスにアピールする目的で、マシューは自己紹介をキメた。彼の計画ではこのまま一気にクロノに話しかけ、友情の火をつける。それはみるみる燃え盛り、親友の炎にまで膨れ上がるのだ。
しかし、その完璧な計画を狂わす異物が入り込んでいることに、マシュー自身もこの時まで気がついていなかった。
「では、次の方」
担任教師のマルコは言った。
「竜の里よりやってきた、ホワイトドラゴンの竜人フォング・カーミラ。友達を沢山作りたいと思っているよ」
白い竜の角を生やした少年が自己紹介をした。彼も転入生だ。
更にもう一人――
「聖地アルロンより参りました、修道士オッドー・カリオットでございます。好きな友達のタイプは、色々なことができる人です」
首にタリスマンをつけた柔和な少年がニコッと笑った。彼も転入生である。
加えて、もう一人、
「コルンツェルのラダッド学院より転校してきた、人間のジェイ・アーモルテだぜ。俺ァ、友達なんざそんなにいらねえ。親友が一人いりゃいいって思ってる。よろしくな!」
なんと、新たにこのクラスに転入してきた生徒は四人もいたのだ。当然、これが偶然であろうはずもない。
(なんという愚かなっ……! 白の竜王、始まりの教皇、獅子の皇帝、あの三馬鹿王が、事前通達もなしに配下を潜入させおったのだっ! こんな季節外れに四人も同時に転入生が来るはずがない。虐殺王に気がつかれるだけぞっ!)
マシューは内心で悪態をつく。自らの主も、他の四王に事前通達しなかったことは彼の頭から抜け落ちている。
「失礼。少々済ませなければならない用事がありまして。皆さんはしばらく親睦でも深めていてください」
マルコはそう口にして、教室を出て行った。
瞬間、マシューたち四人は一番後ろの席、すなわちクロノを見た。
クロノが何気なく彼らを見返すと、慌ててマシューたちは視線を逸らす。
そうして、互いにアイコンタクトをとった。
(我々ほどのレベルならば、目を合わせるだけでお互いの考えていることが大体わかる。魔法通信を使いたいところだが、虐殺王に怪しまれるからな)
マシューはそう視線で訴える。他三人からも同意するような視線が返ってきた。
(こうなったからには、多少不自然だろうとやるしかあるまい。話しかける順番を決めるぞ。文句はあるまいな?)
こくりと三人は頷き、再び彼らはアイコンタクトをとった。
(……一番先に声をかけるのは、オレだ。次が修道士オッドー、三番目が人間のジェイ、最後が竜人フォング。よし、ああ、わかった。これで決まりだ。いいか? 絶対に怪しい動きを見せるなよ。僅かでも勘づかれれば、奴は全知全能、それで終いだ)
視線で釘を刺し、マシューは素早く動いた。
他の三人も自然な足取りで、生徒たちの席の方へ向かっている。
クロノ・グランベフィウスに一歩近づく毎に、心臓の鼓動が早くなる。呼吸が上手く刻めない。視界すら、かすむような気がした。
全知全能の虐殺王――ただ相対するだけで生きた心地がまるでしない。
(だが、行けねばならぬ! 魔神王様の命に従い、なんとしてでも虐殺王の友人となり、この手で抹殺するのだっ!!)
思い切って一歩を踏み込み、マシューはクロノの机に手をおいた。
「「「「やあ、はじめまして。君の名前は?」」」」
自分の声が四重になって響いていた。違う。四人同時に声をかけたのだ。オッドーも、ジェイも、フォングも、マシューとまったく同じタイミング、まったく同じ台詞で、クロノに笑いかけていた。
(アイコンタクトをミスって、全員自分が一番だと勘違いしただとっ!!!? なんという馬鹿どもなのだっ!? )
マシューは内心で三人を罵倒した。
だが、すぐに思考を切り替える。
(いや、いやまだだ。怪しまれるな。偶然四人同時に声をかけたように振る舞うのである。なに、このマシュー、胆力にはいささかの自信があるのである)
すると、それまで黙っていたクロノが口を開いた。
「季節外れに四人も転入生とは珍しい。雨が降るな」
何気ない口調だった。なんの他意もない世間話だった。
だが、マシューは直感した。
(雨……!? 血の雨かっ……!? オレたちの思惑にお気づきになられ、お手をお汚しになられるおつもりなのかっ……!?)
恐怖でガタガタと震えるマシューたちに、クロノは言った。
「心配は無用だ。すぐに緊張など感じなくなる」
(殺される……!!!! 離れるのだっ! 自然を装い、されど一刻も早く! そのための妙案をひねり出せっ!!)
マシューたちは反射的に叫んでいた。
「「「「トォォォイレーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」」」」
全速力で疾走し、彼らはトイレに駆け込んでいく。最早、虐殺王を抹殺する気力など完全に潰え、マシューは個室で震えるばかりだった。




