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世界を救った伝説の英雄の体を借りパクした件について  作者: 冬狐あかつき
異世界転生したらとんでもない英雄の体だった

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9話 置き手紙


 時は少しばかり遡る。

 カズヤの運命的な出会いと同時期に、セシリアとリューテンガンド国王──オズウィン・リューテンガンドの二人が、城の一室で護衛もつけずに密談していた。


「勇者の枷はどうなっている? そろそろ次の段階へ移れそうか?」


「それが予想以上に耐性が強く、時間がかかりそうでございます。心身共に疲弊させてしまえば多少優位に働くと思うのですが、そちらも難航している次第でして……」


「これはお主が考えた計画なんだぞ! 伝説の勇者が反旗を翻すようなことになれば、余の立場が――」


「陛下、落ち着いてください。後は時間の問題です。首輪をつけることができれば、我らリューテンガンドは頭一つ抜けた存在になりましょう。五大国の長になるのも夢ではありません」


 セシリアの甘言にオズウィンは冷静さを取り戻す。

 先程までの焦りはどこへやら、頭に浮かんでいるのは勇者を従えて頂点に立っている自分の姿。


「そうか……そうだな。ならば早く目的を遂行してみせろ! 私の信頼を損ねるではないぞ」


「……小物が」


「何か言ったか?」


「何でもありませんわ国王様。では私はそろそろ仕事に戻らさせていただきます。お話できて光栄でございました」


 セシリアがローブをつまみながら国王に一礼した時、彼女が首から下げていたネックレスについていた、赤色の宝石が砕け散った。


「な⁉︎」


「どうかしたのか?」


「管理棟の敷地内に何者かが侵入しました。警報の反応から察するに、おそらくは魔族かと……」


 セシリアの言葉を聞いて、国王は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「管理棟の周辺をくまなく捜索しろ! 魔族が入り込んでいる可能性がある」


 国王は胸元から呼び鈴の魔道具を取り出して、激しく鳴らしながら大声で叫ぶ。

 国王の命を受けた近衛兵は、ばたばたと足音を立てながら駆けていった。


 それに続き、城に侵入者を知らせる鐘の音が響き渡る。

 



 

「では、私もこの辺で失礼致します」


「もう行くのか? 外は危険だろう。ここでわしと……」


「侵入者に見つかる前に、研究室の結界を張り直さなければいけませんので。申し訳ございません」


 セシリアは国王の提案を遮ると、恭しく頭を下げる。

 その言葉に、国王は諦めたように小さく息を吐いた。


「何体侵入したか知らんが、捕らえた魔族は全てそちらに送る。実験用の素体は多い方がよかろう?」

 

「光栄に存じます」


 弾んだ声とは裏腹に、振り返った聖女の顔は、感情の色が感じられないほど無機質だった。




「見張りの者に確認をとりましたが、目撃情報は出ておりません」


「そうですか、ありがとうございます。では引き続き捜索をお願いしますね」


 セシリアが近衛の兵士にお礼を言うと、近衛兵が気まずそうな顔で紙を差し出した。


「これは、何でしょうか?」


「例の部屋に置かれておりました。本人が書き残したか、侵入してきた魔族が残した物かは分かりかねますが……」


「国王様にこのことは?」


「まだ報告はあげておりません。セシリア様にまずは、と……」


「あらあら、そんなこと言われたら困ってしまいますわ。ですが……そうですね、国王様にこれ以上、心労をおかけするべきではないと愚考しますの」


「……ゴミを聖女様に押し付けて申し訳ない。私はこれから任務に戻りますので、処分をお願いできますか?」


「お任せください。お掃除は得意です」


 セシリアは笑みを浮かべて答えると、近衛兵は足早に仕事に戻っていった。

 遠ざかる近衛兵を無表情で見送ったセシリアは、近くの空室に入り、鍵を閉めて内容を確認する。



 拝啓 聖女様、国王様


 突然のご連絡となり大変恐縮ではございますが、私は一身上の都合により、英雄としての任務を辞退させていただく決意をいたしました。これまで共に切磋琢磨し、手助けしてくださった皆様には誠に申し訳なく存じます。


 私の心身の状態を鑑み、このままでは皆様にご迷惑をおかけすることになると判断いたしました。これ以上、皆様の期待に応えることが難しい現状を考え、自らの命と健康を最優先にするべきだと決断したことを謝罪いたします。


 短い間ではありましたが、皆様との生活は私にとって貴重な経験になりました。

 今後の皆様のご活躍とご健勝を心よりお祈り申し上げます。私自身も新たな道を模索し、自分自身の人生を見つめ直す所存です。

 重ねて、これまでのご支援に深く感謝申し上げます。


敬具




「……あの野郎」


 セシリアはふざけた内容の手紙をグシャリと握り潰し、宙に放り投げる。

 宙を舞う手紙に黒炎が纏わりつき、地面に落ちるまでに灰すら残さずに焼失した。


「もう少し相手をして骨抜きにした方が良かったかしら? まあ後悔しても手遅れなのだけれど……」


 勇者を復活させる時に、逃亡を阻止するような呪いも組み込んだはずだった。

 侵入者に解除されたか、元から効果がなかったのか。

 セシリアは唇を噛み締めると、部屋に置かれてあった椅子を蹴り飛ばす。

 大きな音を立てながら椅子が転がり、壁にぶつかって止まる。

 その直後、扉が控えめにノックされた。

 

「――どうかなされましたか? すごい物音がしましたけど?」


「私としたことが部屋に虫が出ましたの。虫は本当に苦手ですわ。何を考えているのかわからないから……」


「聖女様でしたか。申し訳ありません。掃除が行き届いていなかったようです。今から清掃に入ります」


 

 侍女の心配する声にセシリアは表情を切り替える。

 セシリアは機械的にも感じる美しい笑みを浮かべると、侍女を部屋に招き入れた。




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