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伝説の勇者に転生した元社畜、魔王候補のロリババア魔族と逃亡生活始めました  作者: 冬狐あかつき
勇者は辞退しました

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20話 覚醒


 イリアは杖を消し去ると、小さく息を吐いた。


「マジックバッグがないのに収納できるんだな」


「これは収納したのではなく、魔法を解除したのじゃ。あの杖はわしが独自に生み出した魔法で形作られたものでな」


「へえー、やるじゃん」


「お主、絶対わかってないじゃろ」


 イリアが心を読んだかのように指摘してきたが、無表情でやり過ごす。


「その杖を作り出した魔法で、武器を一本作れないか? 別に剣じゃなくてもいいんだけどさ」


「無理じゃな。あれはマナの運用を安定させるための補助魔法で、武器を作る魔法ではない。それに、もし仮にそのような魔法があったとしても、強度を高めるのにかなりのマナを消費する。お主の馬鹿力ではすぐに壊れてしまいじゃろうよ」


 また馬鹿って言った。

 イリアは俺をお馬鹿キャラに仕向けているのではないかと心配になるが……反論できるような言葉が思い浮かばなかったので、今日のところは大人しく引き下がっておこう。


「あのスライムってなんだったんだ? 不良品か、壊れかけてたってこと?」


「いや、違うな。あれは未熟な術師が作ったものではない」


 傲岸不遜(ごうがんふそん)な態度が売りの、イリアが素直に相手を認めていることに驚いた。


「じゃあ、わざとあんなイカれたスライムを作ったってことか……。あんなの生み出して何がしたいんだ?」


「わしにもわからんが……術師が魔法使いを恨んでいることは間違いないじゃろうな」


「そういえば、わざわざイリアを狙ってきたな」


「スライムのような存在に、複雑な思考を与えるのは不可能に近い。あれ程高位のスライムを仕上げるのに、どれだけのマナが必要か。あれはまるで……」


 イリアは何か引っかかっているのか、難しい顔をして考え込んでいる。


『おなかすいた!』


「はいはい、今行くよ。本当によく食べるな。あんまり食べ過ぎるとメタボ体型になっちゃうかもしれないぞ」


 少し離れた位置で、アリの巣の見張りをしていたルルが声を上げる。

 考え込むイリアを残して、俺はルルの元に向かった。


 これで一件落着。スライムは倒れて、平和が訪れた……はずだった。


「小僧! まだ生きておる!」


「なぁっ――」


 イリアの忠告を聞いて、スライムがいた場所へと目を向ける。

 穴から這い出てきたスライムは、体の大半を失っていた。

 だが、それでもスライムは、何事もなかったかのように攻撃を仕掛ける。

 

「ルル! 逃げろ」


 スライムは高速に回転する触手をルルへと伸ばす。

 明らかにさっきとは違う攻撃方法。

 油断。失態。そして後悔。

 負の感情が全身を駆け巡る。


『ご主人!』


 ルルは助けを求めるように俺を呼んだ。

 でも、届かない。間に合わない。

 頭が沸騰するように熱くなり、全力で足を動かすが──小さなぬかるみに足を滑らせて、体勢を崩してしまう。


 ルルが、死ぬ? こんなところで? 駄目だ。駄目だ。

 やっと一緒に外へ出られたのに……


「──っざけんな!」


 高まり続ける体温。

 体の異常を無視して、強引に足を踏み抜けば……俺は何故かルルの真横に移動していた。


「へ?」


 一瞬思考が停止する。

 その隙を狙ってスライムの攻撃は、俺を避けてルルの元へ。


 その後の行動は反射だった。

 スライムの高速回転する触手へと拳を打ちつける。


「まずっ……」


 ここで頭がひと足先に冷静に。

 人の腕は硬いものを殴るようには出来てはいない。

 俺の全力で放った拳は、スライムの触手を砕くことに成功して、その後地面に向かって叩きつけられた。


 落雷が落ちたかのような轟音が響き渡る。


「消し飛ばしたじゃと⁉︎」


『ご主人! すごい! おなかすいた!』


 困惑するイリアと、襲われたのに平常運転のルル。

 そして、俺は深い凹みができた地面から腕を離すと。

 

「……痛く、ない? 怪我してない! やったぜこんちくしょう! 頑丈な体に感謝!」


 骨折する程度の怪我は覚悟していたのだが、結果は無傷。

 アドレナリンが出て、痛みを感じてない線もあるが、拳が変色してくる気配はなかった。

 天に向かって歓喜の叫びをあげていると、ルルが俺の腕に飛びついてくる。


『ごはん』


「はいはいルルさん、丈夫で頑丈な美味しいご飯ですよ〜」


 上機嫌にルルを抱きしめながら食事を与えていると、イリアがゆっくりと歩いてきた。


 これは仲間としていいところを見せられたのではないだろうか?

 イリアは俺の全身をじっくりと見つめると、真剣な眼差しで問いかけてくる。


「もしかしてお前は……何処ぞの神と契りを結んでいるのか?」

 

 ……あらやだ、お嬢ちゃんったら冗談がお上手だこと。

 

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