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伝説の勇者に転生した元社畜、魔王候補のロリババア魔族と逃亡生活始めました  作者: 冬狐あかつき
勇者は辞退しました

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19話 異質なスライム


 イリアが指揮者のように杖を振るうと、木のゴーレムが動き出して、スライムに覆われた土ゴーレムに殴りかかる。

 土ゴーレムはまともに受けるも、体を少しのけ反らせる程度で、あまりダメージが入っている気配はなさそうだった。

 

 始まった戦闘を手に汗握りながら眺めていると、土ゴーレムの体表を覆っているスライムが槍のように変化し、イリアに向かって伸びていく。

 目を見開いて固まるイリアを抱え上げて、攻撃を回避。


「――危なっ! 無害なんじゃなかったのかよ!」


「なんじゃあれは⁉︎」


「いや、なんじゃって言われても、さっき話してたスライムなんだけど」


 頭にルルを、イリアを横抱きにして森の中へ逃げ込む。

 スライムの行動を見て困惑しているということは、やはりイレギュラーな存在だったのだろうか。


「もしかして野生のスライムってやつだった?」


「いや……あれも魔法で作られたスライムのはずじゃ。術式が刻み込まれておったからの」


 イリアは魔法で作られている存在だと断定しつつ、何かが気になっているようだった。


「どうせ後数日でここから出ていく予定だったんだ。あいつは放置して構わないよな?」


「それは、そうじゃが……」


 乱れた息を整える。流石に人一人担いで全力疾走するのは大変だ。

 

 後ろを振り返る。来ていない……よな?

 ほっと胸を撫で下ろしたその時、遠くの方で大きな衝撃音が聞こえた。

 方向は俺たちが逃げてきた所で……


「おい小僧。残念な知らせがある」


「嫌だ! 嫌だ! この状況で聞きたくない!」


『おでかけ?』


「そう、お出掛けだからしっかり捕まっとけよルル! 絶対に離すんじゃないぞ」


『わーい』

 

 イリアの不吉な呟きを遮り、駄々をこねながら逃亡を再開する。

 首を抱くようにしてしがみついているルルは、いつもとは違うルートに興奮した様子だったが、こっちはそれどころではなかった。

 段々と近づいてくる音に、嫌な予感しか感じない。


 体力はまだ余裕がある。

 だが、限界を迎えた時に捕まったら、かなりヤバいのではないか?


「イリア! もし追いつかれたら倒せるか?」


「少し時間を稼げ。ゴーレムごと一掃する」


 頼もしいイリアの言葉に頷くと、道なき道を進んでいく。

 どんな手を使っているのかはわからないが、奴は俺たちを見失うことなく、しつこく追いかけてきていた。

 

「クソっ! こんな時ばかりは、イリアがグラマラスなお姉ちゃんじゃなくて良かったよ」


「スライムを始末したら次はお前の番じゃ。覚悟しておけよ」


「ぐっ! 腹を突くな腹を……」


 怒りに震えながら、イリアは俺の鳩尾にガンガンと杖を打ちつけてくる。



 走り続けて二、三分経ったくらいだろうか。

 イリアが杖で俺の背中をポンと叩く。


「もう良いぞ。わしを降ろせ」


「よし、後は任せた」


 自由になったイリアは大きく背伸びをしながら、近づいてくる足音の方へ視線を向けた。

 

「……ほう。わしの術式に干渉しとるの。どこのどいつが作ったのか知らんが、舐めた真似しおってからに」


 現れたゴーレムは様相が変わっていた。

 体は一回り大きくなり、全身に鎧のように木を纏っている。

 イリアの言葉を解釈するなら、止めに入った木のゴーレムを取り込んだということだろうか?

 考えただけでもゾッとする。遭遇時にまとめてやられていたら、今頃俺もあそこに……


「――ぷふっ!」


「なに笑っておる」


「あれについてる俺を想像しちゃった。中々にシュールな光景だと思うよ。ルルとか喜んでくれそう」


『こわい』


 だが肝心のルルは、登場したゴーレムを見て小さく震えていた。

 例えるなら夏休み明けの友人が、全身ピアスにしてきて登校してきたくらいの衝撃だろうか。

 友達の変貌ぶりがショックだったのかもしれない。

 ルルはゴーレムを見ないように、俺の首に顔を押し付ける。

 

 俺もできることならイリアに顔を押し付けて怯えていたいところだが、流石に大の大人がそれをするのは情けない。

 なので、大人の威厳を保つために、虎の威を借る狐ムーブに移行を決定。


「このファンタジーの代名詞め! お前はここまでだ。イリアさん! 懲らしめてやりなさい」


「命令するな三下」


【グラウメテオ】


 イリアは俺に的確な評価を下すと、両手で杖を掲げる。

 すると上空に魔法陣のようなものが生まれて……真っ黒い大岩のようなものを排出した。


 ごくりと生唾を飲み込む。初めて見る攻撃魔法の迫力は想像以上だった。

 あんなのが直撃すれば、人間はひとたまりもないだろう。



 

 宙に浮かぶ大岩は、ゴーレムの元に移動を始め──突如として亀裂が走り、弾けるように砕け散った。


「あれ、イリア?」


 目の前の光景に不安を感じて隣を見ると、そこにいたはずのイリアの姿はなかった。

 慌てて視線を巡らして見つけたのは、全力疾走で遠ざかる一つの背中が……


「――ちょっと待て! 魔法失敗したんなら先に言え! なに一人で逃げてんだ、裏切り者め!」


「うるさい! 魔法の発動自体は成功しておる! ……その後、ちょっとばかし制御を誤っただけじゃ」


「聞こえてんぞ! 今、()()()()()()って言ったよな⁉︎」


 ヒュンと頬の先を何かが掠る。直後、聞いたこともないような爆音と共に地面が揺れた。

 足元に出来た穴を覗き込むと、バラバラになった大岩のかけらが目に入る。


 ごくりと生唾を飲み込む。

 まさかと思いながら、ゆっくりと顔を上げると――細かくなった大岩の欠片が、不規則に移動を始めた。


「ぬわっ! イリアさん⁉︎ 敵はあっち! 俺じゃない!」


「わしに言うな! もうあの魔法は、わしの制御下にはない!」


「あなたが産んだ子供でしょうが! 最後まで責任持ちなさい!」


「人聞きの悪いこと悪いことを言うでない! わしに――」


 横から飛んできた岩片を、イリアが横っ飛びで回避する。

 俺も咄嗟にしゃがみ込むと、すぐ上を岩片が通り過ぎていった。

 安心したのも束の間、背後で大きな物音が聞こえて……


「イリア! そっちにゴーレム行っちまった!」


「くそっ」


 スライムに侵されたゴーレムは俺を飛び越え、イリアを猛追する。


 拳を振りかぶるゴーレム。……彼女を守る護衛はどこにもいない。


「イリア!」


 思わず声を上げる。唇を噛み締めるイリアの姿が目に映る。

 ゴーレムが拳を振り下ろす瞬間――その背中に岩片の一つが直撃した。


「……あ」


 小さな声が漏れたと同時に、それまで縦横無尽に飛び回っていた岩片が一斉に軌道を変え、まるで意思を持ったかのようにゴーレムに殺到する。


 岩片はゴーレムの体を削り取り、勢いそのままに地面の奥深くまで突き刺さった。

 呆気なく蹂躙されるゴーレムを前に、イリアは口をぽかんと開けている。


「わ……わしの計算通りじゃ!」


「嘘つけ! 絶対ラッキーパンチだったろ今の!」


 自慢げに胸を張るイリアに突っ込む。

 ゴーレムという名の障害物がなければ、あの岩片はイリアに直撃していただろう。

 

 

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