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伝説の勇者に転生した元社畜、魔王候補のロリババア魔族と逃亡生活始めました  作者: 冬狐あかつき
勇者は辞退しました

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18話 襲われたゴーレム


 のどかな日常から一変、ゴーレムは無色透明な水に覆われていて身動きが取れずにいた。

 助けてやりたいが、相手がどんな奴なのかもわかっておらず、ゴーレムも抵抗していない。

 一度戻ってイリアに判断を仰いだ方がいいと()()()()()()()()()()()、急いで洞穴に戻った。




「イリアてえへんだ! ゴレ土くんが水のお化けにやられた」


「……うるさい。わしは酒が抜けるまでは起きるつもりはないのじゃ。死んだのなら後でまた作るから、静かにしていろ」


 イリアはなんだか休日のお父さんのような空気を出しながら、再び眠りに入ろうとする。

 背を向けたイリアに向かってルルが飛び込んでいき──

 

『おっきいの、また会える?』


「……おい小僧。何かわしに言い残すことはあるか?」


 水浴び後のルルが体の上に乗ったことで、イリアの服はびしょ濡れになってしまう。

 怒髪天をつく勢いでブチギレているイリアは、震える声で問いかけてきた。


「悪い。ドタバタしてて乾かしてなかっ――危なっ! ごめん、ごめんって! それくらい緊急事態だったんだよ」

 

 イリアの怒りに応えるように、洞穴の外にいる木ゴーレムが枝を伸ばして攻撃してくる。

 振り回される枝を必死で避けながら謝罪を重ねていった。

 



 無様に踊る俺を見て満足したのか、ゴーレムからの攻撃は止まり、イリアは外に出て服をパタパタ揺らして乾かしている。

 

「……水みたいな相手と言ったな。多分そいつはスライムじゃ」


「おお! それっぽい名前。強いのか?」


 テレビゲームの影響で、スライムには弱いイメージがあったが、さっきの出来事でそれは覆された。

 音もなく忍びより、人間より巨大なゴーレムの上半身を覆いつくすほどの質量。

 仮に寝ているところを強襲されれば、呼吸を阻害されてあっという間にお陀仏だぶつだ。


「強いか弱いかは相手を見なければわからん。自然発生した魔物のスライムとは別に、魔法で生み出されたものもおるしな」


「イリアのゴーレムみたいなやつか」


「あんな低級の魔法と一緒にするな。楊枝(ようじ)の先が尖っておるからといって、剣と同じ武器になるわけではあるまい?」


『ようじおいしい?』


「食べ物じゃないよ、ルル」


 その言葉で興味が薄れたのか、それとも目の前に立つ餌の方が魅力的だったのか、ルルはふーんと流しながら、俺の手を甘噛みして食事を始めた。


「自然発生したものは厄介じゃが、魔法によって作られた存在は無視しておけばいい。大抵は排泄物や廃棄品の処理する役割しかないからの。実にくだらん魔法じゃ」


 魔法で生み出したスライムを売り払って商売している魔族もいるほど、生活に欠かせない魔法らしい。

 魔法で生み出されたスライムには繁殖力はなく、内包するマナが切れたらそこで死滅する。

 そしてそれらは基本的に創造主──人や魔族に危害を加えられないような、セーフティーがかけられているようだ。


「そうなのか。じゃあイリアのゴーレムに襲いかかったのは何でだ?」


「ゴーレムにはわしのマナが残留しておる。人間の排泄物にも微弱なマナを纏っておるからの。その違いを認識できないのであろう」


 力のない魔法使いが生産した不良品じゃ、とイリアは告げる。


「自然発生した奴に出会った可能性はないのか?」


「ないのう。断言できる」


「理由を聞いてもいいか?」


 何でお前そんなこともわかんねえんだ、みたいな顔はやめてください。

 イリアは控えめな胸を張り、腰に手を当てる。

 

「馬鹿にでもわかるように説明すると、お主が出会ったのが自然発生したスライムだとすれば、襲われたのはゴーレムではなくお前じゃったよ」


「弱そうだってことか?」


「自然発生したスライムは魔獣と違い、知能はあまり高くはない。相手の姿を見て力量を把握できる奴なんておらんよ。ただ、自然発生したスライムも同様にマナを喰らう。どちらが食い出のある餌かどうかくらいは判断できるじゃろう」


 なんと嬉しくない理由だろうか?

 ルルから『イリアよりも美味しい』との評価をもらえた時は、かなり嬉しかったが、これはまた別だ。

 いざという時にはゴーレムを囮にして逃げ出せばいいかと、安直に考えていたのを後悔する。

 

 だが、幸いにも野生のスライムは体を維持できるようにするために、もっと大気のマナが濃い場所(ここよりも強力な魔物や魔獣が生息している)にいるようだ。

 だからあいつがイリアの言う魔法によって作られたスライムであれば、放置しても問題ないだろう。


 遊び相手を失ったルルは、ゴーレムが戻ってこないことに納得していない様子だが……


「あのゴーレムを助けたとて、数日でマナが尽きる。その程度の存在に無駄なマナを使う気はない。そんなに助けたくばお前が倒せば良かろう?」


 イリアの言い分も、もっともだ。

 戦闘力を持たないスライム相手に、無駄なマナを使わせることになってしまう。

 だから俺は覚悟を決めた。

 食事を終えたルルを持ち上げ、顔の前に持ってくる。


「ルルさん、残念なお知らせがあります」


『ご主人がんばって!』


「いや……そうじゃなくて。そんな目を輝かして俺を見ないでくれ。心が痛い」


 ゴーレムくんの殉職を告げようとしたが、ルルはなぜか俺を応援してくる。

 可愛い可愛いルルの頼みであれば、できるだけ聞いてあげたい。

 だけどスライムがいくら戦闘能力が少ないとはいえ、武器もない俺に大したことはできそうもなかった。


『ご主人のほうがはやいよ』


 純粋なルルの言葉を聞いて、イリアがぷっと吹き出す。


「いや……逃げ足早くても倒せないんだわ。おいそこ! 笑う前に援護してくれよ」


「そやつの言ってる通り倒せばよかろう? スライムの食性はマナを喰らうだけじゃ。敗北してもマナを失うだけで、命まではとられんよ。……でもまあそうじゃなあ、問題があるとすればそいつの食事がなくなるだけじゃな」


 イリアはルルを指差して忠告する。

 他人事のように言ってくるイリア。

 

 二人にかけられた呪いの魔法によって、俺が死ねばイリアも死ぬ。

 軽口を叩けるほど、死ぬ危険は限りなく低いのだろうが……


『かえってきた!』


 興奮した様子のルルに目を向けると、ルルは入り口を見ながら尻尾を激しく振っている。


 ゆっくりと視線の先を見ると……全身をスライムに包まれたゴーレムがこちらに歩いてきているところだった。


「ん? 何が? 嘘だろ! イリアさん、家出息子がイメチェンして帰ってきてます!」


 

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