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伝説の勇者に転生した元社畜、魔王候補のロリババア魔族と逃亡生活始めました  作者: 冬狐あかつき
勇者は辞退しました

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17話 幻獣


 幻獣は遥か昔に存在した種族で、文献にもほとんど残っていない。

 だが御伽噺や古くからの言い伝えの中で、信憑性の高いとされているものがいくつかあり、それが複数の魔法の行使できる力だった。


 進化した魔獣であっても、複数の魔法を行使することはできない。

 だが、その法則は魔物には当てはまらないらしい。


「何で魔獣だけ特別なんだ? さっきの話じゃ、魔物の中には複数魔法を使える種族もいるんだろ?」


「魔物の中にはかつて人間や魔族だった者たちがおる。使用できる魔法に制限がかかってしまうが、それでも生前の恩恵を受けることがあるんじゃよ」


「……もしかして、アンデッドってやつか?」


「何じゃ、知っておるのか? 知能の低い下級のものならそこまでの脅威はないがの。人間も魔族もアンデッドの類いは最優先で討伐しておるから、あまり見る機会はないじゃろう」


 アンデッドやリッチといったモンスターは、ゲームや創作の中でよく出てくる。

 強力な魔獣も怖いが、俺としてはそれ以上に出会いたくない相手だった。

 下手に遭遇してトラウマになることは避けたい。


「アンデッドに噛まれると、自分もアンデッドになるとか起きない、よな?」


「そんなことが起きるのであれば、この世はアンデッドだらけじゃ」


 イリアが俺の問いを鼻で笑いながら否定する。

 ファンタジー世界であれば、まだやっていけそうではあるが、ホラーは専門外だ。

 夜にトイレに行く時、イリアに付き添いを頼まずにすむと、安堵の息をはく。


 イリアが話したアンデッドが生まれる仕組みは大まかに分けて二つ。

 一つ目は大気中のマナが澱んでいる場所で死亡した時だ。

 一度に大量の生物が似たような場所で死ぬと、マナが澱むことがあるようで、この現象で生まれるアンデッドのほとんどが知能の低い下級のアンデッドである。


 そして問題は二つ目……


「邪神と契約を交わす? 凄いワードが飛び出てきたな。やっぱり神は身近にいる存在なのか」


「身近にいたのは遥か昔の話じゃ。何柱もの神々が下界に降りて地上の生物に力を与え……地上は荒れ果てた。それを反省して、ほとんどの神は天界に還っておる」


 当時の神のフットワークは軽く、人間、魔獣問わず多くの生き物に力を分け与えていた。

 だからこそ神に選ばれた者――使徒と呼ばれる存在が権力を得ていている世界で、大規模な戦争が起きたのは必然だと言える。


 その戦争は神の代理戦争とも呼ばれ、地上に大きな爪痕を残した。

 自らの過ちを悔いた善なる神々は天界に戻り、それ以降表立って行動することはなかったそうな……


「今でも邪神と契約したアンデッドがいるんだよな? 邪神は天界に戻らなかったってことなのか?」


「人魔大戦すらも知らぬのか……。邪神は恐怖と絶望を糧にして、世に破壊と混乱をもたらす存在よ。地上が荒れ果てたところで邪神が天界に戻るわけなかろう。善なる神々が地上から去った後、猛威を振るった邪神の眷属たちは、人と魔族の連合軍によって討伐され……邪神は奈落に封印された」


 神が去った後も、使徒の一部は加護を剥奪されずにいたらしい。

 その者たちが立ち上がって邪神の眷属に戦いを挑み……勝利した。

 なんともまあ壮大な話だが、そんなハードモードな時代に転生しなくてよかったと心の底から思う。




 ――――――――――

 イリアが昼寝に入ったことを確認して、俺はルルと一緒に洞穴の外に出た。

 洞穴の外には木のゴーレムと、土のゴーレムがじっと直立しており、俺が出てきたことで土のゴーレムが後をついてくる。


『おさんぽ! おさんぽ!』


「魔獣がいないからって、あんまり遠くに行くなよルル!」


 ルルは好奇心の塊だった。

 花の甘い香りに誘われては茂みに突っ込み、蝶々を追いかけて木登りしたかと思えば、突然樹上からダイブする。

 一度目の散歩の後、本気で散歩中は首に縄をつけることを考えたほど危なっかしく見えた。

 だが、相談したイリアに『そのくらいでは怪我をすることはない』と呆れたように教えられたこともあり、今はあまり離れないようにだけ言い聞かせて、ルルの自由にさせている。


「本当に便利な魔法だよな。当人が寝てても問題ないなんて」


 イリアが生み出したゴーレムは、彼女が与えた魔力がなくなるまで動き続ける。

 命令権の最上位はイリアだが、関係ない俺との意思疎通も可能で、ある程度自由に動くことができた。

 今回のようにボディガードとして働いてくれることもあれば、ルルの遊び相手になってくれたりもする。


 

 地球と比べてかなり文明レベルが低いなと感じていたが、イリアと一緒に生活したことで、魔法が扱える者が多い魔大陸では、独自の発展を遂げているのかもしれないと思うようになった。






 ルルが満足するまで散歩を続けて、最後に俺たちは森の中にある水場まで来ていた。


「待てっ! 今日は水浴びするからな。泥に突っ込むなって言ったろ?」


『やだー!』


「駄々こねてもダメだぞ。泥だらけで帰ってもいいけど、その代わり綺麗になるまで、一緒に寝るの禁止な」


『それもやだー』


 ルルは水浴びがあまり好きではないのか、俺の手から逃げ続ける。

 人間の価値観を押し付けるのは少し可哀想だが、このまま放置しておくと、ルルの相手をする俺やイリアの服が酷いことになってしまうのだ。

 先日、泥だらけの体でイリアの顔面に飛び込んでしまったこともあり、激怒した彼女から「散歩後は綺麗になるまで戻ってくるな」とお達しも受けていた。

 ここは心を鬼にして終わらせよう。


「はい捕まえた。綺麗さっぱり洗い流してやるからなー」


 俺に捕まったルルは、慌てたように前足で顔を拭い……


『ルル、きれいなった』


「くそ汚いぞ。諦めろ。そんなんじゃ騙されません」


 泥だらけの体でそんなこと言ってくるルルに頬を緩めながら、泉の水を手で掬って流してやる。

 

 かなり深いであろう泉の水は底が見えるほど澄んでいて、大雑把に洗うのには十分過ぎるほどの水質である。

 人間の飲み水には使えないかもしれないが、動物たちにとっては楽園のようなところなのだろう。


 少し離れた場所では、薄緑色の小鳥や、小さなリスが泉の水を飲みに来ている。

 心癒される光景だ。

 可愛らしいリスが挨拶を交わすように小鳥に近づいていき……がばりと体が裂けて小鳥を捕食した。

 

 驚きのあまり、小さな悲鳴が漏れる。


『おわったー?』


「終わったよ。……儚い命だった。水は後で乾かそう。急いで帰るぞ」


 地球と同じような認識ではいけない、と考えていた矢先にこれだ……

 濡れること構わずにルルを胸に抱き、泉を後にする。

 だが数歩進んだところで、ついてくる足音が聞こえないことに気がついた。


 泉の方へ振り返れば──警護してくれていたはずのゴーレムが、粘度の高い水のようなものに覆われながら、ポツンと立ち尽くしていた。

 

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