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伝説の勇者に転生した元社畜、魔王候補のロリババア魔族と逃亡生活始めました  作者: 冬狐あかつき
勇者は辞退しました

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16話 進化


 ルルは間違いなく進化個体だ。

 透明になる力と回復させる力、少なくともその二つは魔法としか考えられなかった。

 ルルが使う回復魔法は今後生きていく上でお世話になる可能性が高いので、教えておいた方がいいのだろう。

 だが、ルルが逃げ出した時の聖女の反応が気がかりだった。


「魔族の中で進化個体って、どんな扱いになっているんだ?」


「力が強い分、攻撃的な奴らが多いからの。基本的には始末対象じゃ。進化個体と契約を結んで住んでおる変わり者もいるにはいるが、あれは例外中の例外。普通は共生なんて不可能じゃよ」


 イリアは宝剣で切り取った燻製肉を、乱雑に口に投げ入れて酒を流し込む。

 プハっと吐き出した酒臭い息がこちらに届いてくるが、悲しいかな朝から晩まで酒臭いのでもう慣れてしまった。


「こんな短時間で飲み過ぎだぞ。魔族にアルコール中毒があるかわからないけど、倒れないようにしてくれよな」


「数々の名酒を飲み干してきたわしじゃぞ? この程度の酒をあおったくらいで倒れるほど、やわな体はしておらぬわ」


「それならいいんだけどさ。もう一つ聞きたいんだけど、魔法と魔術の違いはあるのか?」


「しょうがないのう。わしがゴブリンにもわかるように説明してやる。魔術とは今やほとんど使える者がおらん失われた魔法の総称じゃ。わしも詳しくは分からんが、昔は魔法を使うのに特殊な過程を必要としたらしい。舞や儀式。有名どころで言うと生贄としての触媒を必要とするとかじゃの」


 魔法も時代の移り変わりと共に使いやすくなるように改良されていて、昔の魔法は今よりも扱える人が少なかったようだ。

 そして気になるワード――触媒とはマナを持つ生物の亡骸を魔術に利用する方法で、この技術は改良されて現在でも普通に使われているという。


 ……聖女がルルを血眼になって探していた目的も、やはりそれだろう。

 人間のために魔獣の力を利用するのは、多分この世界では自然なことで、おかしいのは俺の方だと思う。

 そう自覚していながら俺は……ルルと一緒にいたかった。


 訓練官には目の敵にされ、何の娯楽も与えてもらえなかった王城で、どれだけルルの存在が俺の心を癒してくれたか……


「そんな不細工な顔をせずとも、とって食おうといった真似はせぬよ。わしはそんなちんちくりんな魔獣の力を借りずとも、既にエリート中のエリートじゃからな」


 不器用なイリアの優しさがありがたい。


「なんかごめんな気を遣わせて。それと俺は不細工じゃないです。中々にいい顔立ちしてます。……そうだよね? 大丈夫だよね?」


「うっさいわ馬鹿」


 

 この世界の美醜感覚が違うのかもと不安になり、イリアに聞いてみるも、鬱陶しく思われたのか顔面に瓶を投げつけられる。

 慌ててキャッチすると、瓶一杯に液体が入っていた。


「これは酒か?」


「水じゃ。お前如きに酒など百年早いわ」


 前言撤回。イリアは意地悪だ。

 酒を見せびらかすようにして飲み干すイリアを見て、そう確信した。

 気持ち悪そうになるまで飲まなくていいのにとは思うが、酒は彼女の所有物で水を分けてもらっている立場である。

 彼女が気がつかないように、鼻くそを飛ばすくらいで勘弁してやろう。

 水に口をつけながら、空いた手で鼻くそを射出……


「――ブフッ! ゴホッ……ゴホッ」


「何じゃい。水もまともに飲めんのか。お子ちゃまは手間がかかるの……」


 

 デコピンの要領で飛んでいった鼻くそは、イリアのおでこにくっついた。

 彼女はそれに気が付かず、ナイフで肉を切り分けている。


「……イリア、額にゴミがついてるぞ」


「ほう……。わかってきたではないか。その心がけでいるのじゃぞ」


 イリアの横で膝をつき、綺麗な手拭いでおでこを拭うと、上機嫌になって俺の肩を叩く。

 俺を使用人のような扱いをするつもりなのかと危機感を抱くが、その認識はこれから自分の行動で修正していければいいだろう。


『おなかすいた』


俺の右手にルルが食いついてくる。


「起きたのか、ルル」


「早うマナを与えろ。空腹の時にわしに近づけるでない!」


 ガジガジと甘噛みしているルルを見て、イリアが焦ったように宝剣をこちらに向ける。

 食後はイリアもルルと遊んであげているところを見るので、嫌っているわけではないようだが、どうやらマナを吸われたことがかなりトラウマになっているようだ。


「悪い。場所を移動するよ」


「別に移動する必要はないじゃろう。獣畜生に怯えるわしではないからな」


 ……面倒くさいなこいつ。イリアの真横にいたので引き離してやろうとしたのだが、それは彼女のプライドが許さないらしい。

 イリアはわしがその気になれば一瞬だからな、などと意味のわからない張り合いをしている。


 あぐらをかいて逃げ出さないように、足の上に乗せて食事を進めていると、五分程度でルルは満足した。

 日に日に食事の時間が長くなっているのは、成長していると喜んでいいのだろうか?

 俺のマナでは足りなくなる時が来そうで少し怖いな。


「――イタっ! チッ、切ってる感覚がないから加減がわからん」


 イリアが肉の切り分けに失敗して指を切ってしまったようだ。

 言い訳のように原因を伝えてくる。

 タイミング的にルルが食事を終えて、俺の指から口を離した瞬間だったのだが、深くは聞かないでおこう。

 ……あんなに食事中のルルを警戒するんだったら、大人しく離れていればいいのに、とは思うけど。


『いたい、いたい?』


「何じゃお前! まさか食い足りないのではないだろうな!」


「あっ! ルルさん、ちょっと待っ――」


 ルルを止めようとするが遅かった。

 ルルの体が光を帯びて、イリアの指に燐光が纏わりつく。

 イリアは怪我をした自分の指の状態を確かめるように指で撫でて、ルルを見る。


「……おい飼い主。目を逸らすでない。こっちを見ろ」


「えっと、その……黙っててすいませんでした」


 ルルが進化種だということはこれでバレた。

 だがイリアは隠していたことを責めるでもなしに、やけ酒をするように酒を流し込む。


「よりによって森の癒し手だったとはのう。人に懐くのも驚きじゃが……まあ隠す気持ちも分からんでもない」


 今後話さなくてはいけないとは思っていたが、今それを伝えても言い訳にしか聞こえないだろう。

 どんな罵倒も甘んじて受ける気でいたのだが、イリアの言葉はそれも仕方ないと言っているようだった。


「そんなに回復魔法は珍しいのか?」


「魔法に長けている魔族の中にも回復魔法の使い手は少ない。それは種族の相性云々ではなく、回復魔法が特殊な力だからじゃ。生まれつきの才能が全てで、どんなに努力しても後発的に使えるようにはならん」

 

 魔法のことに至っては絶対の自信を持っているイリアが、自分も回復魔法は扱えないと言う。

 そして森の癒し手というのは、回復魔法を発現する魔獣の二つ名になっているらしい。


 予想外に受け入れてくれたイリアの反応に、ホッと胸を撫で下ろす。

 残る魔法のことも、後でバレるくらいなら、この流れで正直に話しておこう。


「イリア、もう一つ伝えておくことがあるんだけど……」


「お主の話か? 別に全てを伝える必要はないぞ。わしも身の上話をするつもりはないんでな」


「違うよ。今度もルルの話。……ほら、ルル、透明になってくれる?」


「お主何を……」


『わかった!』


 持ち上げたルルの体をイリアの顔の前に持っていく。

 俺のお願いにルルは元気よく答えると、ルルの体は一瞬で透明になった。


「ルルが使える魔法もう一つあったんだ。この体だから隠れる以外、戦闘には役に立たないと思うけど……」


 姿を隠した状態で攻撃しても、ルルの体格では大した戦力にはならない。

 回復魔法と比べると少し物足りない感は否めないが、それでも役に立つ時がくるはずだ。

 だがイリアは先程以上に、顎が外れそうなほど大口をあけて驚いていた。


「ほんっとーに何も知らないんじゃのうお主は! 魔獣が使える魔法は一種類だけじゃ! 複数使えるものはおらん」


「え? でもルルは二つ使ってるけど……」


「だからそいつは魔獣ではない。それは幻獣……おとぎ話に出てくるような存在じゃぞ」


『うまうま』


 ルルが隠蔽を解除してそのまま指を咥える。

 食いしん坊が二度目の食事に入った中、イリアと二人で会議が開かれることとなった。

 


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