14話 借宿
話は少し遡り、魔力を吸い取られたイリアが、ルルを追いかけている時だった。
鬼ごっこと勘違いして逃走するルルを捕獲するために、小型のゴーレムも総動員しての大捕物。
その後、広場に戻ってきたイリアは、寝ている俺が複数の人間によって紐で拘束されているのを目撃する。
彼らの目的は俺が解体した素材の余りで、最終的に男たちはイリアが不意打ちで気絶させたらしい。
相手を殺さなかったのは、イリアが敵に温情をかけたわけではなく、あいつらが帰らないことで他の冒険者が探しに来るのを嫌ったから。
それを聞いた時には、本当に敵対種族なんだな、と人ごとのような感想が浮かんだ。
「直接殺されなくて良かったと思うべきかどうか……。何でそんなまどろっこしい真似したんだろ?」
「古い教えで罪を犯すと死後それ相応の罰を与えられると考える者がおる。奴らの中に似たような信仰を持っていた者がいたんではないか?」
直接的な人殺しまではしたくなかったんじゃろとイリアは続ける。
魔獣がいるこの森で俺を拘束するのは同じことだと思うが、それでも違いがあるのだろうか?
「そっか。ならお礼を言わなきゃだな。助けてくれてありがとう」
「わしの言葉を信じるのか?」
イリアはお礼を受けて、訝しげな顔を見せる。
「疑った方が良かったか。でも……ルル! イリアとの追いかけっこ楽しかったか?」
『もういっかいやる!』
「何の話を……」
「もし今の話が嘘だったら、こんなにもルルが懐いてないと思うんだ。だからイリアの話を俺は信じるよ。それと何度も言うようだけど、早く拘束を解いてくれると嬉しい。俺が変な趣味に目覚めてしまう前に……」
そんな俺の頼みにイリアは頬を引き攣らせると、嘆息を漏らした。
「あれ程の力を持っている人間を、それだけで縛れるわけなかろう?」
地球基準で物事を考えるのを早く止めないといけないな。
両腕に少しばかり力を込めると太めのロープが引きちぎれ、パラパラと地面に落ちる。
「今から何処に向かっているんだ?」
「隠れられる場所を探しとる。ただでさえ少ないマナを、どっかの大喰らいが食い漁ったからの」
「その節は本当にごめんなさい」
一度ルルには言い聞かせなければいけないな。
魔獣と相対して分かったが、現状イリアの魔法は俺たちが生きていく上での生命線だ。
男として情けないことだが、まともな武器を持たない俺は戦力半減。大して役に立てそうになかった。
しばらく探索して、イリアは小さな洞窟を選択する。
ここは本来、サンドワームと呼ばれる魔物が卵を産みつける産卵室らしい。
家主はまだ地中で生活しており、もう少し寒くなってきた時に産卵に入るので、それまでは使い放題みたいだ。
「どれくらいここで休憩するんだ?」
「ある程度マナが回復するまでじゃな。せめて三割まではもっていきたい」
イリアが言うには、それには四日は休息を必要とするらしい。
これが長いのか短いのかわからないが、少なくとも外に出る準備をする時間ができたと考えよう。
眠っているルルを膝の上に乗せて、イリアから分けてもらった魔獣の燻製肉で腹を満たす。
「なあ、俺も魔法を使えるようになるのか?」
期待に胸を膨らませながら問いかける。
前世ではいい年齢だったとはいえ、男はいくつ歳をとっても、魔法の誘惑には抗えないのだ。
「無理じゃろうな。諦めろ」
「やっぱり特別な才能が必要とか?」
イリアは俺の顔をじっと見つめると。
「お主、頭悪そうだからのう。やるだけ無駄じゃ」
「オッケー喧嘩だ。知能指数の高い大人の実力を見せてやろ……冗談だって冗談。俺は平和主義者なんだ。暴力反対!」
ねじくれた杖を向けられたことで、俺は男としての威厳を保つことを諦め休戦に入った。
俺のかっこいいところは、またの機会にとっておくとしよう。
イリアは杖を地面に置くと、燻製肉をつまみに酒を流し入れる。
「だがまあ、全く才能がないと言うわけではないが……宝の持ち腐れじゃな」
「おっ! そうなのか?」
思わぬ評価に頬を緩める。
何かしらの才能があるなら、今後の努力次第でどうにかなるかもしれない。
「お主、そこの魔獣に頻繁にマナを吸われておるな。それなのに苦しさも見せずにピンピンしておる。普段魔力を使っていないとしても、内包するマナは人並み外れておるよ」
「この子の名前はルルだ。そう呼んであげてくれたら嬉しい」
「どう呼ぼうがわしの勝手じゃ」
マナを吸われたことを怒っているのか、イリアはつんけんした態度で拒否する。
だが俺は知っているぞ。酔っ払っている時、こっそりとルルを撫でようとしていたことを……
イリアがルルの可愛さに陥落することは時間の問題だ。
暇つぶしに語られる、イリアの話に耳を傾けていると、彼女は相当な問題児だったことが判明した。




