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世界を救った伝説の英雄の体を借りパクした件について  作者: 冬狐あかつき
勇者は辞退しました

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12話 旅の準備


 回収した動物はイリアから少し離れた場所で解体する。

 血の匂いに混じって他の肉食獣がやってこないか心配だったのだが、一度も他の動物を見ることはなかった。


 

 王城で解体を教えてもらったことはあるが、一度きり。

 それもかなり小さな狐の魔獣だったので、こんなに大きな獲物を捌くのは不安だったのだが、思いの外上手く処理できたと自分でも思う。


 まあ、やったことといえば血抜きをして毛皮を剥ぎ、肉を切り分けただけなのだが、それでもかなりの重労働だ。

 


 

 ある程度解体が終わり、イリアの様子を見に行くと、いつのまにか彼女はルルを腕に抱きながら眠っていた。


「……死にとう、ない」


 イリアの寝言は、自由になり、ふわふわした気持ちでいる俺を、現実に引き戻すのに十分な言葉だった。

 

 イリアは好きで俺と一緒に行動しているわけではない。

 動けなくなる呪いをかけてきた彼女も悪いところがあると思うが、感違いした罰がこれでは、あまりにも重すぎる。


「……もうちょっとだけ、頑張ろうかな」


 その日は眠ることなく、全ての魔石の回収を終わらせた。



 ――――――――――――――


 翌朝、目をこすりながら起きてきたイリアに作業の終わりを報告すると、結果に驚いているようだった。


「やればできるではないか。もう半日はかかると思っていたぞ」


 上機嫌になったイリアは、土を固めて即席で作ったかまくらのようなものに、小型の土ゴーレムを使って肉を運びこむと、その中で木を燃やし始める。

 どうやら燻製肉を作ろうとしているらしい。


『ご主人、どこ?』


「ここだよ、ルル」


 ルルも起きたようで、いつものように俺にとび込んで来ようとしたが、直前で足を止める。


『クチャい』


「あっ! ごめんな。鼻が麻痺してたわ。イリア! ちょっと水場行ってくる」


 

 魔獣との追いかけっこの最中に、大きめの池を見つけていた。

 そこで体を洗ってくればいい、とイリアに声をかけたのだが──

 大量の水が俺の元に降り注ぐ。


「――ブハッ! イリア、何すんだよ!」


「……洗ってやっただけではないか。文句を言うでない」


 そのあまりの水量に溺れそうになった俺は、たまらず文句を飛ばしたが、イリアはつんと顔をそむけながら言い返してくる。


 ……結果的に体にこびりついていた血は流れていた。

 親切心でやってくれたのだろうと思い直し、持ってきたタオルを取り出して体を拭き始める。


『うまうま』


「あの……ルルさん?」


 まだ俺の手は臭うのか、ルルは俺の肩に飛び乗ると俺の耳たぶを甘噛みし始める。

 流石にくすぐったくて声をかけるが、ルルは一心不乱に食事を続けた。



 お腹一杯になったルルは、俺のあぐらの上で仰向けになって眠っている。

 野生を忘れたかのような無防備なその姿は、見ていて少し心配になるが、俺を信頼してくれているのだろう。





 出来上がった大量の燻製肉が倒木の上に並べられていく。

 骨が取り除かれているとはいっても、全部で魔獣十二匹分もある。

 これを持っていくのは現実的ではないが。


「そんなに必要なのか? いや……何も知らない俺が言うのもなんだけどさ」


「森を出たら次いつ手に入るかわからんのだぞ? わしはゴブリンの肉など食いとうない」


 イリアの言うゴブリンが俺の知るものと同じかどうかわからないが、仮にそうであれば俺としても人型の相手を食べるのは抵抗がある。

 イリアの言葉に賛同はするが……


「その量を持ち運ぶ道具は持ってないぞ? シーツを入れ物代わりにしても、その一割も入らないと思う」


「案ずるな、無知蒙昧むちもうまいな小心者よ。お前は何を見てきたのじゃ?」


 イリアが言葉のナイフで刺してきながら、腰につけていた小さな鞄を掲げる。

 鞄の口を引っ張るようにして広げると、不自然に拡張されていき、その中に土ゴーレムが肉を運んでいった。

 肉を入れても鞄が膨らんでいく様子はなく、もしかしてこれはゲームで言うアイテムボックスのようなものなのだろうか?

 

「へー、便利だな。重さとかは変わらないのか?」


「鞄と同じ重さしかない。まあ、保管するのに相応のマナを消費するがな」


「それは一般市民でも持てる道具なのか? 市販されてるのなら、俺もお金を貯めて買いたいんだけど」


「粗悪品なら手に入るだろうが、これと同じものはお前如きが一生働いても手にすることはできんよ。これは魔道具ではなくてアーティファクトの類いだからな」


 その説明で何やら凄そうなのかはわかる。

 自慢げなイリアに拍手を送ると、彼女は上機嫌になりながら鞄から緑色の瓶を取り出した。

 彼女は瓶を前に差し出すと前にいた土ゴーレムが恭しく受け取り、コルク栓を取り外して返却する。

 イリアはニヤリと笑いながら瓶に口をつけると、ゴクゴクと中身を飲み始めた。


「ぷはー美味い! 大量のつまみもあることじゃしな。酒が進むわ!」


「酒? 子供が酒なんて……」


「わしは八十は超えとる。子供扱いするでない」


 イリアが投げつけてきたコルクが、俺の額に直撃する。

 そんな彼女の行動に文句を言おうとするが……今なんて言った? 八十歳⁉︎


「……若作りすぎだろ」


「魔族は生まれ持つ魔力量によって寿命が左右されるのじゃ。これもまた、わしの才能というわけじゃな」


 魔族は、ということは、人間はまた別なのだろうか?

 イリアの言葉を信じるなら、彼女の体は成長することなく、子供のままで……


「……可哀想に──ブフェ! 痛い! イリア、ゴーレム止めて!」


「今の会話の流れで、なんでその言葉が出てきた! 仕置きじゃ、馬鹿者!」


 仕事熱心なゴーレムの猛攻をひたすら耐える。

 ゴーレムは、イリアが眠りに入るまで止まることはなかった。


『ご主人、大丈夫?』


「うん。一応手加減してくれたみたいだ」


 回復魔法を使ってくれた、ルルの頭を撫でてやると、嬉しそうに尻尾を振り、そのまま眠ってしまった。




 ルルを抱き上げて、近くにあった倒木に腰かける。


「魔獣が襲ってきたら、こいつら迎撃してくれるんだろうか?」


 静かに待機するゴーレムを見る。

 ……まあ疲れてそうだったし、明日確認すればいいか。


 二日、三日寝れないことなんて、前世では当たり前だった。

 念の為、今日は寝ずの番をしよう──そう決めたのだが、強烈な睡魔に襲われ、俺の意識はゆっくりと闇に沈んでいった。



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