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伝説の勇者に転生した元社畜、魔王候補のロリババア魔族と逃亡生活始めました  作者: 冬狐あかつき
勇者は辞退しました

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10話 目覚め


「やっと起きたか大馬鹿者め」


「……あれ? 生きてる? もしかしてまた転生しちゃった?」


「何を言っておるんじゃ? 恐怖で頭までおかしくなったのか?」


 体を起こせば、呆れ顔のイリアが俺を覗き込んでいた。

 彼女は先ほどまで着ていた、焼けこげたボロボロの服ではなく、飾り気のないシンプルなローブに着替えている。


 俺は確か、上空から落下して……


「ルルっ! ――ブハッ」


『ご主人おきた! またやる! ルル、お空とびたい』


 勢いよく体を起こせば、俺の顔目掛けてルルが飛び込んでくる。

 優しく持ち上げて顔から剥がすと、ルルは嬉しそうに体を広げてアピールをしていた。

 能天気なその姿にほっと胸を撫で下ろす。


「その……ありがとうな、ルルを助けてくれて」


「お前も助けてやった」


「……その節はご迷惑をおかけしました」


「馬鹿みたいに気絶しおって。こんなに間抜けとは思わなんだ」


 謝罪を聞いたイリアはここぞとばかりに責め立てる。

 大して役に立ったとは言えないが、少なくとも最後だけは身を挺して助けたはずだ。

 それなのに役に立たないだの、使えないだの罵られて、俺は我慢の限界に達した。


「元はといえばお前が変な移動したからだろうが! 人間は急に紐なしバンジーこなせるようにはできていないの!」


「うるさい! あれは、魔道具が悪いのじゃ! 短期間の行使程度で壊れおって……」


 そこでイリアは言葉をとめる。

 まずいと思ったのか、ゆっくりと顔をそらした。

 ……そういえばそんなこと言ってたな。


「ふーん、イリアの使い方が悪かったから、こんなことになったのか。どう思うよルル?」


『おなかすいたー』


「ほら、ルルもイリアが悪いんじゃないかって言ってるぞ? これで二体一。形勢逆転だな。多数決ばんざい」


「……嘘をつくでない。お腹が空いたと言っておるではないか」


 イリアの言葉に驚きのあまり固まる。

 頭に直接響いてくる、ルルの言葉は城の侍女には聞き取れなかったはずだけど。


「あれ? もしかしてルルの言葉聞こえてる?」


「当たり前じゃ。魔族は人より魔に近しい存在じゃぞ。全ての魔獣の言葉が聞こえる訳ではないが、契約を交わしている魔獣の言葉くらいは理解できる」


「契約?」


『うまうま』


 イリアの言葉を受けて、ガジガジとオレの指を甘噛みしているルルへと視線を落とす。


「俺が寝ている間にイリアが契約したのか?」


「わしは契約しとらん。契約相手はお主じゃよ。それでなければ、人が魔獣の言葉を理解できるわけなかろう?」


 ……契約か、俺はただ懐かれた程度に思っていたんだけど。

 ルルは俺の視線に気が付かず、指を甘噛みすることに夢中だ。


「うん。……餌認定されてるのは間違いないっぽい。ルル! そこらじゅうに草木があるぞ。食べ放題だ! 俺の指をかじる前にそこから始めよう。ほらっ、この草とか美味しそうじゃないか?」


『おいしそうじゃない』


「好き嫌いは駄目だぞルル。いっぱい食べないと大きくなれないからな。そんな栄養価の少なそうなものかじってないで、一回これを食べてみよう。もしかして木の実の方がいいのかな? よし任せろ。今から森じゅうの木の実を探して……え? 森⁉︎」


「騒がしい奴じゃ」


「イリアここどこ? 俺たちこれから森の中で生活するのか? ……まあ、別に俺は食料さえどうにかできるなら、二年くらいは我慢できると思うけど」


「したいのならお前だけここで生活してろ。わしは魔力を回復させたら、ここから出ていくからの」


「そんな悲しいこと言うなよ。俺もついて行くって」


『ルルも〜』


 食事を終えたルルは軽く爪を立てて俺の体を登頂し、俺の頭に覆い被さってすやすやと眠り始めた。

 洗ってやれていないのに獣臭さはなく、どこか甘い香りが漂ってくる。


「外に出れたら、ルルは森に返そうと思ってたんだけどな……」


「契約しておるのなら離れん方がいいぞ。契約内容によっては、契約主から離れると死ぬものもあるのでな」


「まじか? なら連れて行くしかないけど、ルルみたいな魔獣を連れてる人間って外の世界にいっぱいいるのか?」


 セシリアがルルの何に反応したのかわかっておらず、下手すればイリアも同じ反応をするかもしれない。

 変に目立つのなら人里にいる間は透明化をお願いする必要があるので、慎重に言葉を選んで聞いてみる。

 


「わしは知らん。わしは魔大陸出身じゃぞ。人間の話はお前の方が詳しかろう?」


 魔大陸というものが何かわからないが、名前的にイリアのような人外の種族が住む土地だろうか。


「申し訳ないけど、俺はほとんどの記憶を失ってて、ここ一週間くらいのことしか覚えてないんだ。その期間もあの城から一度も出たことないから、外の世界のことは何も知らないぞ」


 イリアとは運命共同体のような関係になってしまっており、少なくとも呪いが解けるまでは一緒に行動したい。

 黙っていても、いずれバレることになると思うので、誤魔化しつつも正直に告白すれば……イリアはポカンと大きな口を開けて固まってしまった。


「記憶喪失じゃと?」


「言葉は話せるんだけどなあ。それ以外はさっぱりだ」


 訝しげな目を向けてくるイリアに説明すると、彼女は小さく息を呑んだ。


「……最初の会話からして不自然じゃったからのう。お主はあの城で保護されていたのか?」


「保護っていうか……まあ、軟禁に近いな。出会った時は、俺も混乱に乗じて逃げようとしてたところだったんだ」


 彼女は半信半疑といった様子だったが、それ以上は追及してこなかった。


「じゃあ最後に一つ聞かせろ。お主は何ができる? 魔法は使えるのか?」


「簡単な計算なら……分かったって、そんなゴミを見るような目で見るなよ」


 裏方に徹しようと答えるも、イリアが冷ややかな視線を向けてきたことにより断念。


 しかし、訓練したといっても、俺はまだまだ半人前ってとこだろう。

 持っている武器も模擬戦用の剣だし、戦いになれば足手まといになるのは目に見えている。

 どさくさに紛れて、逃げる時に武器も拝借してくれば良かったけど……


「持っている獲物がこんなおもちゃじゃなかったら、かっこいいとこ見せられたんだけどなあ。残念だなあ。代わりと言っちゃ何だけど、体力には自信があるから、道中はイリアの荷物でも……」


「――体力に自信があるんじゃな?」


「えっと、それは……」


 有無を言わさぬ声色で詰められ、思わず口をつぐむ。

 軽い気持ちで言ったはずなのに、完全に逃げ道を塞がれていた。

 

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