結末とエピローグ・運命の番
私が放った光は、謁見の間にいた者たちの心を、静かに、だが確かに変えた。『魔力なき王女』が起こした奇跡。それは、彼らが長年信じてきた竜族への恐怖と憎しみが、偽りの言い伝えによって作られた幻であったことを、何よりも雄弁に物語っていた。
兄アルフォンスは、国家反逆罪および和平交渉妨害の罪で、その地位を剥奪され、王城の塔に幽閉されることとなった。父である国王は、全ての真相を知り、病の床で涙ながらにカイゼルと私に謝罪したという。
アウレリア王国とドラグニア帝国の間には、百年の長きにわたる対立の歴史上、初めてとなる真の和平条約が結ばれた。その条約の調印式で、二つの国の代表として署名をしたのは、竜帝カイゼルと、そしてアウレリアの王女であり、ドラグニアの皇妃でもある、私、エリアーナだった。
私はもう、『埃まみれの姫』でも、『出来損ない』でもない。二つの国の架け橋となる、唯一無二の存在として、新たな道を歩み始めたのだ。
エピローグ
あれから、数年の時が流れた。
かつて『冷血の竜帝』と恐れられたカイゼルは、今では民から敬愛される賢帝として、国を治めている。彼の隣には、常に私の姿があった。私たちは、公務の合間を縫っては、アウレリアから取り寄せた古い本を一緒に読んだり、城の庭園を散歩したりと、穏やかで満ち足りた日々を送っていた。
「……また、難しい顔をしているぞ」
執務室で、私がアウレリアから届いた陳情書に目を通していると、カイゼルが後ろから、そっと私の肩を抱いた。
「少し、休んだらどうだ。お前の体は、もうお前一人のものではないのだから」
彼の大きな手が、優しく私のお腹を撫でる。その手の下には、新しい命が宿っていた。竜の血と、人間の血を引く、二つの国の希望の象徴。
「ふふ。心配性ですね、カイゼル様」「当たり前だ。お前と、この子以上に大切なものなど、この世界のどこにもない」
彼の言葉は、少しも大袈裟には聞こえなかった。振り返ると、彼の紅い瞳が、昔では考えられないほど、甘く、そして情熱的な光を宿して、私を見つめている。
私たちは、どちらからともなく、自然に唇を重ねた。
偽りの政略結婚から始まった、私たちの物語。それは、無価値だと虐げられた少女が、偽りの関係の中から真実の愛を見つけ、自らの力で運命を切り拓くまでのおとぎ話。
そして、そのおとぎ話は、ここで終わりではない。これから先も、ずっと、ずっと続いていくのだ。愛する人と、そしてこれから生まれてくる子供と、共に。
窓の外では、柔らかな陽の光が、平和になった大陸をキラキラと照らしていた。かつて「出来損ない」と蔑まれた少女は、愛する人の腕の中で、世界で一番の幸福を、その手に掴んでいた。




