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『滅びの運命を背負う呪われし皇女、敵国の“冷血竜帝”に政略結婚で嫁いだら、実は運命の番(つがい)でした』  作者: 伝福 翠人


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二つの国の夜明け

あの日、カイゼルの寝室で迎えた夜明けを、私は生涯忘れることはないだろう。それは、ただ夜が明けたというだけの物理的な現象ではなかった。私と彼を隔てていた、長くて暗い夜が、本当の意味で明けた瞬間だったのだ。


私が意識を取り戻した後、城の中は目まぐるしく動いた。反乱を企てた兵士たちは、皇帝への反逆罪として厳正に裁かれた。そして、宰相ゲオルグの手によって、『魂の番』の神話と、エリアーナこそがその伝説の存在であるという真実が、帝国内に正式に布告されたのだ。


最初は半信半疑だった城の者たちも、カイゼルの呪いが完全に鎮まったという事実を目の当たりにし、次第に私を見る目を変えていった。恐怖と敵意は消え、代わりに畏敬と、そしてある種の好奇心が宿るようになった。侍女たちの態度は驚くほど丁寧になり、廊下を歩けば、誰もが深々と頭を下げる。


けれど、そんな周囲の変化よりも、私にとって大きかったのは、カイゼル自身の変化だった。


彼は、もう私のことを「道具」や「所有物」とは呼ばなかった。公の場では「我が皇妃」と、そして二人きりの時には、少しだけ照れたように、けれどはっきりと「エリアーナ」と、私の名前を呼んでくれるようになった。


凍てついていた彼の表情は、驚くほど豊かになった。私が書庫で見つけた面白い話をして笑わせると、彼は目元を和ませて静かに微笑む。私が故郷の話をして少しだけ寂しい顔をすると、彼は黙って私の頭を優しく撫でてくれる。言葉数は少ないままだったけれど、その一つ一つの行動に、不器用ながらも深い愛情が込められているのが、痛いほどに伝わってきた。


「……お前のせいで、調子が狂う」


ある晩、執務室で仕事をする彼の隣で本を読んでいると、彼が不意にそう呟いた。


「どうしてですか?」「……お前が側にいると、心が穏やかになりすぎる。これでは、『冷血の竜帝』の威厳が保てん」


そう言って、彼は困ったように笑った。その、今まで見たこともないような柔らかな笑顔に、私の心臓は、甘く締め付けられるようにきゅんとなる。


私たちは、本当の意味で、夫婦になったのだ。偽りの政略結婚から始まった関係は、いくつもの偽りを乗り越えて、一つの真実に辿り着いた。


だが、幸せな日々の中にも、暗い影は確実に忍び寄っていた。アウレリア王国からの抗議の書状が、日に日にその数を増していたのだ。


『我が国の王女を誑かし、帝国の争いに巻き込むとは何事か』『即刻、エリアーナ王女を返還されたし。さもなくば、今回の件を重大な外交問題と見なす』


兄、アルフォンスの仕業であることは、火を見るより明らかだった。彼が蒔いた「災いの種」が、彼の思惑とは全く違う形で芽吹いてしまった。彼は、私が帝国を内側から崩壊させることを望んだのだろう。だが、結果として、私は帝国にとっての「光」となり、皇帝との絆を深めてしまった。


この状況は、彼にとって最大の誤算であり、許しがたい屈辱のはずだ。


「アルフォンスは、必ず次の手を打ってくる」書状の山を前に、カイゼルは静かに言った。「奴は、お前という『切り札』を、みすみす俺に渡したままにはしておくまい」


「切り札……?」


「そうだ。お前は、もはやただの王女ではない。竜の呪いを癒す、唯一無二の存在。その力は、使い方次第で、この大陸の勢力図を塗り替えることすらできる。――奴は、その価値に気づいたのだ」


カイゼルの言葉に、私は息を呑んだ。兄は、私を、今度は「力」として奪い返しに来るというのか。


「心配するな」私の不安を読み取ったように、カイゼルは力強く言った。「今度こそ、俺がお前を守る。何があっても、誰にもお前を渡しはしない」


その言葉は、絶対的な安心感を私に与えてくれた。けれど同時に、私の胸には、新たな決意が芽生えていた。


もう、ただ守られているだけの私ではいたくない。彼と、この国と、そして、偽りの平和に喘ぐ私の故郷のために。私にしか、できないことがあるはずだ。


「カイゼル様」


私は、彼の瞳をまっすぐに見つめ返した。


「私からも、一つ、お願いがあります」

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