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『滅びの運命を背負う呪われし皇女、敵国の“冷血竜帝”に政略結婚で嫁いだら、実は運命の番(つがい)でした』  作者: 伝福 翠人


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夜明けの告白

意識が浮上する直前、私は温かい光に包まれる夢を見ていた。それは、アウレリアの書庫で浴びた、埃っぽい陽の光とは違う。もっと、体の芯からじんわりと温めてくれるような、優しい光。誰かの腕の中にいるような、不思議な安心感があった。


ゆっくりと目を開けると、見慣れない天井が視界に入った。彫刻の施された豪奢な天蓋。そして、ふわりと香る、白檀のような落ち着いた香り。そこは、私の部屋ではなかった。


「……気がついたか」


すぐ側から、静かな声がした。はっとして横を向くと、そこにカイゼルが座っていた。彼は、寝台の脇の椅子に腰掛け、ただじっと、私のことを見つめていた。その紅い瞳には、もう怒りも、呪いの苦しみも、凍てつくような冷たさもない。そこにあるのは、夜明けの湖面のように、静かで、そしてどこか切なさを湛えた、穏やかな色だった。


「ここは……?」「俺の寝室だ」


彼の言葉に、私は驚いて身を起こそうとした。だが、体は鉛のように重く、ぴくりとも動かない。あの地下通路で、全ての力を使い果たしてしまったかのようだった。


「動くな。まだ、力を使った反動が残っているのだろう」カイゼルは、そう言うと、そっと私の額に触れた。その手は、初めて会った時のように冷たくはなく、確かな温もりを持っていた。


「……あの後、どうなったのですか? 反乱を起こした兵士たちは……」「全員捕らえた。宰相のゲオルグが、抜かりなくやっている」「そうですか……」


よかった、と安堵の息を漏らす。けれど、一番聞きたいことは、それではない。


――あの時、何が起こったのか。――私の身に宿っていた、あの光は何なのか。――そして、あなたが最後に、何を言おうとしたのか。


聞きたいことは山ほどあるのに、言葉が出てこない。そんな私の心を見透かしたかのように、カイゼルは、ゆっくりと口を開いた。


「……お前が、書庫で見つけた本を読んだ」


彼は、私の枕元に置かれていた、あの竜の皮の書物を指差した。意識を失った私をここまで運び、そして、この本を読んでくれたのだろう。


「『魂の番』……。馬鹿げた神話だと思っていた。何百年も前に失われた、ただのおとぎ話だと」


彼の声は、静かな自嘲を帯びていた。


「だが、違った。お前が、この手で証明してくれた。我が一族を縛り続けてきた、この忌まわしい『血の呪い』が……お前に触れているだけで、まるで雪が溶けるように消えていく」


彼は、私の手を、両手で包み込むように優しく握った。


「エリアーナ」


初めて、彼は私の名前を呼んだ。それは、道具でも、所有物でもなく、ただ一人の女性の名前として。


「俺は、ずっと間違っていた。お前を、アウレリアが送り込んできた『道具』だとしか見ていなかった。お前の価値を、呪いを和らげる力、その一点でしか測っていなかった。だが、本当は……」


彼は、一度言葉を切り、何かを決心したように、私の瞳をまっすぐに見つめた。


「お前こそが、俺が、我が竜の一族が、永劫の時をかけて待ち望んでいた、唯一の存在だったのだ」


その告白は、どんな華麗な愛の言葉よりも、私の心を強く揺さぶった。ああ、だからなのか。私が、アウレリアで「出来損ない」だった理由。魔力を持たずに生まれてきた理由。それは、全て、この瞬間のためだったのかもしれない。


彼と、出会うために。彼の呪いを、解き放つために。


「お前は、災いなどではない。お前は、俺の……」


カイゼルは、再び言葉を詰まらせた。その表情は、まるで初めて感情を知った子供のように、不器用で、そして愛おしかった。


私は、動かない体に必死で力を込め、彼の手に、自分の指をそっと絡ませた。


「……カイゼル様」「なんだ」「あなたの、そばにいても、いいですか」


偽りの皇妃としてではなく。呪いを和らげる道具としてではなく。ただ、エリアーナとして、あなたの隣に。


私の問いに、彼は、今度こそはっきりと答えてくれた。その瞳に、確かな光を宿して。


「……お前がいなければ、俺は、もう生きていけない」


その言葉は、静かな夜明けの光のように、私たちの間にあった、全ての壁を溶かしていった。涙が、熱い雫となって、私の頬を伝う。それは、悲しみや絶望の涙ではない。生まれて初めて知った、温かい喜びの涙だった。

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