表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『滅びの運命を背負う呪われし皇女、敵国の“冷血竜帝”に政略結婚で嫁いだら、実は運命の番(つがい)でした』  作者: 伝福 翠人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/17

魂の共鳴

その姿は、神話の挿絵から抜け出してきたかのようだった。あるいは、悪夢そのものか。


カイゼルの背で広がる黒い翼は、まるで夜の闇を切り取って作ったかのようだ。額の角は王冠のように威厳を放ち、その全身からは、素肌を焼くほどの魔力が陽炎のように立ち上っている。これが、竜人族の真の姿。強大すぎるが故に、普段は人の形に抑え込んでいるという、力の解放。


彼を前にした反逆者たちは、腰を抜かしてへたり込む者、恐怖のあまり声も出せずに震える者、様々だった。彼らが抱いていた浅はかな憎悪など、この絶対的な存在の前では、風の前の塵に同じだった。


「ひ、ひぃ……! お、お許しを……!」「我らは、ただ国を憂い……!」


命乞いの声が、哀れに響く。だが、カイゼルの瞳に宿る怒りの炎は、少しも揺るがなかった。彼の紅い瞳は、もはや理性の色を失い、呪いの発作が起きた時と同じ、危険な光を宿し始めている。


まずい。力の解放は、彼の理性を蝕み、呪いを加速させているのだ。このままでは、彼はこの者たちを殺すだけでは済まない。暴走してしまう。


「カイゼル様! おやめください!」


私は、彼の背後から叫んだ。けれど、その声は彼の耳には届いていないようだった。彼は燃え盛る炎の剣を、ゆっくりと振りかぶる。


止めなければ。どうすれば?


――女王は、竜王の流した灼熱の涙を、その身に受け止めた。書庫で見つけた、あの古い記述が、脳裏を雷のように駆け抜けた。


私は、ほとんど無意識に、カイゼルの前に駆け出していた。彼の巨大な翼の下をくぐり抜け、反逆者たちと彼の間に、自分の小さな体で割り込む。


「エリアーナ!? 危ない、下がれ!」


背後から、ゲオルグの切羽詰まった声が聞こえた。けれど、私は動かなかった。


目の前には、怒りと呪いに飲まれかけたカイゼルがいる。その瞳は、もう私を映してはいない。ただ、破壊の衝動だけが、赤く燃え盛っている。


怖い。体が、本能で逃げろと叫んでいる。けれど、不思議と、足は動かなかった。


私は、そっと両手を広げた。それは、あまりにも無防備で、愚かな行為だっただろう。


「カイゼル様」


私は、彼の瞳をまっすぐに見つめて、呼びかけた。


「あなたの痛み、私にください」


その瞬間。カイゼルの瞳から、一筋、炎のように赤い雫がこぼれ落ちた。それは、彼が流した、灼熱の涙。


涙は、私の胸元へと吸い込まれるように落ちて、ドレスを焦がすこともなく、すっと消えていった。そして、私の体の中から、これまで感じたことのないような、温かくて、そして強大な光が溢れ出した。


眩い光が、地下通路全体を包み込む。それは、優しくて、全てを浄化するような、慈愛に満ちた光だった。


カイゼルの体から立ち上っていた禍々しい魔力が、その光に触れて、みるみるうちに霧散していく。翼が、角が、幻だったかのように消え、彼は元の人の姿に戻っていた。瞳に宿っていた危険な光も、もうどこにもない。


彼は、信じられないものを見るかのように、目を見開いて私を見つめていた。そして、ゆっくりと、その場に膝をついた。


「……あ……ぁ……」


カイゼルの口から、途切れ途切れの息が漏れる。その表情は、苦痛から解放された安堵と、そして、何百年もの間、彼らを縛り付けてきた呪いのくびきから、ついに解き放たれたことへの、純粋な驚きに満ちていた。


私もまた、自分の身に起きたことが信じられずに、ただ呆然と立ち尽くしていた。私の体の中に、こんな力が眠っていたなんて。


脳裏に、あの古い本の言葉が稲妻のように閃いた。――魂の番、と。


私とカイゼル様は……。


静まり返った地下通路に、遅れて駆けつけてきた兵士たちが、反逆者たちを取り押さえる物々しい音だけが響いていた。


そんな喧騒の中、私には、確かに聞こえた。膝をついたカイゼルが、ほとんど吐息のような、か細い声で呟いた言葉が。


「……エリアーナ……。我が、……」


その声は、あまりにも優しくて、そして、切なくて。私は、その言葉の続きを、聞くことができなかった。全身の力が抜けて、私の意識は、柔らかな闇の中へと、静かに沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ