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『滅びの運命を背負う呪われし皇女、敵国の“冷血竜帝”に政略結婚で嫁いだら、実は運命の番(つがい)でした』  作者: 伝福 翠人


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忘れられた書庫の鍵

カイゼルの沈黙は、見えない壁となって、私たち二人を隔ててしまった。あの日以来、夜ごと彼に呼ばれることは変わらなかったが、そこに流れる空気は、以前よりもずっと重く、冷たくなっていた。彼は呪いを鎮めるためだけに私に触れ、それが終わるとすぐに背を向ける。私たちは、まるで言葉を失ってしまったかのように、ただ黙って、互いの役割をこなすだけだった。


私が災いだと、そう思いますか?あの時の問いに対する答えを、私はまだ聞けていない。そして、聞くのが怖かった。もし彼の口から肯定の言葉が出てしまったら、私の心は、今度こそ本当に壊れてしまうだろう。


城の中での孤立は、日に日に深まっていた。侍女たちは、私に触れることさえ恐れるように、遠巻きに世話をする。廊下を歩けば、ひそひそと交わされる悪意に満ちた囁き声が、幻聴のように耳について離れない。


『あれは、呪われた人間だ』『皇帝陛下は、なぜあのような女を側に置かれるのか』『きっと、魔力のない人間だから、呪いに引き寄せられるのだ』


私は、ただ部屋に閉じこもる時間が増えていった。アウレリアの城で、書庫だけが私の世界だったように、ここでもまた、私は狭い鳥籠の中へと逃げ込んでいる。何も変わらない。場所が変わっただけで、私はずっと、独りぼっちなのだ。


そんなある日、カイゼルの側近である宰相ゲオルグが、私の部屋を訪れた。彼は、苦渋に満ちた表情で、私に一枚の羊皮紙を差し出した。


「……これは?」「城の者たちから、皇帝陛下に宛てられた嘆願書です。エリアーナ様を、城から追放するか、あるいは……」


その先の言葉を、彼はためらった。けれど、言わなくても分かる。あるいは、殺せ、と。そう書かれているのだろう。


「陛下は、これを見て、何と?」「『愚か者どもめ』とだけ。そして、この嘆願書を破り捨てられました」


ゲオルグの言葉に、私の胸の奥が、小さく震えた。カイゼルは、私を見捨ててはいなかった。彼は、私を……。


「エリアーナ様」ゲオルグは、まっすぐに私を見据えて言った。「陛下は、言葉で語る方ではありません。ですが、あの方が貴方様をどう思われているか、どうか、その行動で信じて差し上げてください。陛下の呪いが和らいでいるのは、紛れもない事実なのですから」


彼の言葉は、乾ききった私の心に、じんわりと染み渡るようだった。そうだ。カイゼル様は、私を必要としてくれている。たとえ、それが道具としてであったとしても。


「何か……私に、できることはないでしょうか」私は、ほとんど無意識にそう口にしていた。「災い」だという汚名をすすぎ、彼の役に立つ方法。彼の重荷を、少しでも軽くする方法。


「噂の出所は、アウレリアの古い言い伝え。ならば、その言い伝えそのものを覆すような、別の真実を見つけ出すしかありません」「別の、真実……」「はい。ドラグニアにも、アウレリアのそれよりもさらに古い、神話の時代の文献が残されています。ですが、その多くは古代語で記されており、我々にも解読が困難なのです」


古代語。その言葉が、私の頭の奥で、小さな鐘を鳴らした。アウレリアの書庫で、誰にも読めないはずの文字を、私だけが読めたように。


「……その書庫へ、私を案内していただけませんか?」


それは、ほとんど衝動的な申し出だった。けれど、もう、ただ部屋に閉じこもって、悪意の雨が降り止むのを待っているだけなのは、うんざりだった。


ゲオルグは、一瞬驚いたように目を見開いたが、やがて何かを理解したように、深く頷いた。


「承知いたしました。……鍵は、私が」


彼が差し出したのは、古びた鉄の鍵だった。それは、忘れられた知識の扉を開くための鍵。そして、私が自らの足で、この運命に立ち向かうための、最初の鍵でもあった。


もう、守られているだけの弱い私ではない。カイゼルの「道具」であるならば、最後まで、その役割を全うしてみせる。私は、その冷たくて重い鍵を、震える手で、けれど力強く、握りしめた。

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