1 襲撃
それは、曇りがちで風の強い午後だった。
ナリュ村の空を、灰色の雲が重たく覆っていた。
畑に立つ農夫たちは天気の変わり目を感じ取り、作業を早めていた。
子どもたちは川辺で遊ぶのを切り上げ、薪を積んだ荷車が軋む音が、村の通りにひびく。
いつもと同じ、けれど、どこか落ち着かない空気が流れていた。
最初の異変は、山の方角から駆け下りてくる馬の蹄音だった。
しかも、一頭や二頭ではない。十を超える鉄蹄が乾いた地面を叩き、森の入口から土煙を巻き上げて、姿を現したのは、顔を布で覆い、粗末な革鎧と戦斧を持った一団だった。
「や、野盗だーッ!!」
誰かが叫んだ。だが、声が広場に届いた瞬間には、もう遅かった。
怒号とともに村の小道に突入してきた野盗たちは、家々へなだれ込む。無造作に戸を蹴破り、抵抗する者には容赦なく棍棒や斧を振るった。
老人が殴り倒され、悲鳴を上げた娘が髪を掴まれて引きずり出される。
叫び、泣き、罵りの声が一斉に混じり合い、静けさに包まれていた村が、いまや地獄の炉のような混乱に満ちていた。
一人の男が、納屋から農具を手に飛び出してきた。木製の鍬を振るって野盗に挑みかかるが、笑いながら刃を振るわれ、胸元から血を噴き上げて崩れ落ちた。その血が土を濡らし、村の地面を赤黒く染めていく。
聖堂に逃げ込んだ者たちもいた。だが、その扉もほどなく破られ、祈りを捧げていた老司祭が殴り倒されると、中にいた者たちは悲鳴を上げながら蹂躙されていった。
金目の物などほとんどない小村で、奴らは食糧、女、皮袋に入った塩や乾燥肉、さらにはまだ火にかけたばかりの鍋ごと奪っていく。
炎が上がったのは、その直後だった。
古い屋根に火が移り、乾いた藁葺きがたちまち赤く燃え上がる。風に煽られ、火は瞬く間に隣家へと移り、村は一面、煙と灰の渦に呑まれていく。
母が子を抱き、泣き叫びながら畑の方へ逃げる。だが、野盗たちは逃げる者にも容赦しなかった。笑いながら追いすがり、背中に短剣を突き立てる。
「広場に村人を集めろ」
野盗の頭目の怒鳴り声が響き渡った。
野盗たちの剣に追われて、村人が聖堂前の広場に集められた。村人たちは戦慄した。
広場には老司祭の首が無造作に転がされていたのだ。
「村人はこれで全部か?」
村人を見渡しながら、頭目が怒鳴った。
村人たちは、怯え切った視線を互いにチラチラと交わし合う。頭目はそれを見逃さなかった。
「なんだ?まだ誰かいるのか?隠しても良いことはないぞ?」
「村はずれの小屋に住む若い奴がいない…」
誰かが小声で言った。
「若い奴?」
頭目が鋭い視線で聞き返す。
「少し離れた場所にあるし、のんびりした奴だから、気づいてないだけかも…」
「気づいてない、だと…」
頭目はあらためて村の惨状を眺めまわした。あちこちに死体が転がっている。村の半数以上の家が燃えている。
この状況に気づかない奴がいるだろうか?
いるわけがない。
どういう理由であれ、そいつは意図的に隠れているに違いない。
「おい。そいつを探して来い」
頭目の指示で、数人の屈強な男たちが村はずれの小屋に向かった。ハルタの家に。




