運動会なんてなくなってしまえ【chatGPT利用】
「はあ、またこの季節か」
五月晴れの空に、軽くため息をひとつ。
私は幽霊。
正確には、第三地球防衛隊・日本支部『お帰り下さい隊』所属の黛かなで。
生前はどこにでもいる女子高生だったが、不運な事故であっさりと命を落とした。
天界に送られた私は、そこで「霊力が高すぎる」とお偉いさんに泣きつかれ、半ば強制的にこの仕事に就くことになった。おかげで成仏もお預けだ。
――パーン! パーン!
花火の音が青空に響く。
あの儀式が、また始まったのだ。
日本全国でこの季節、一斉に始まる行事。その名は――
『運動会』
いや、運動会そのものは別にいい。
問題なのは、「皆で踊るダンス」という、あの演目だ。
大勢が一斉に踊り、手を取り合い、リズムを揃える。
その行為が知らぬ間に、太古より続く“召喚の儀”となってしまっているのだ。
もともとダンスとは神に奉納する神聖な儀式だった。
その名残が、無自覚に霊的波長を呼び寄せ、異世界の“妖”たちを引き寄せてしまう。
そして、彼らはダンスの熱狂に誘われ、ふらりと地球にやってくるのだ。
我々『お帰り下さい隊』の役目は、そんな風に偶発的に呼び出されてしまった妖たちを元の世界に返すこと――
簡単に言えば、異世界からの迷子を“やんわり帰してあげる”係。
「かなで、行くわよ。春日部小学校で今日運動会よ」
仲間の声が無線越しに響く。
「分かってる。今行く」
◇ ◇ ◇
晴れわたる春日部小学校の校庭。風に揺れる万国旗と、観客席の保護者たちの歓声。
「さて、次は小学四年生による皆で踊るダンスの時間です。皆様、盛大な拍手でお迎えください!」
アナウンスとともに、色とりどりの帽子をかぶった小学生たちが元気よく並び、音楽に合わせて一斉に踊り始めた。
その瞬間。
空間がぐにゃりと歪む。
ああ、やっぱり開いた。
空中に薄紫色の波紋が揺れ、そこから次々と異世界の住人が姿を現す。
「すっら、すっら」
最初に現れたのは、水色のゼリー状の生物。感情に応じて色が変わるらしい。
「しゃど、しゃど」
次に現れたのは、真っ黒な毛玉。宙にふわふわと浮かびながら、目だけがギラリと光る。
「オッム、オッム」
最後に現れたのは、巨大なカタツムリに羽根が生えたような異形の存在。何やらリズムを刻んでいる。
「解析班、急いで!」
「了解! 現在、ゲート座標と種族パターンを照合中!」
ゲートは既に閉じてしまった。
一度閉じたら追い返すことはできない。
こちらから再度、正確な位置を開示し、彼らを安全に送り返すしかないのだ。
「かなで、右から行って」
「わかった」
私はふわりと空を舞い、妖たちの正面に降り立った。まずは――対話。
「すみません。皆さん、元の世界にお帰りくださいませんか?」
「すっら?」
「しゃど?」
「オッム?」
まるで通じていない。ていうか――
「……ダンスに夢中だわ」
「そっちどう?」
「ダメです。こっちもダンスに夢中で話を聞いてくれません!」
「しかたない、ダンス終わるまで待ちましょう」
「ですね……」
◇ ◇ ◇
数分後、小学生たちと妖たちのダンスがフィニッシュを迎え、大きな拍手が校庭に響き渡る。
その瞬間、妖たちの動きが止まった。
「すら~」
「しゃど! しゃど!」
「オム、オム~」
夢から覚めたように、妖たちが辺りをきょろきょろと見渡す。
「皆さん、ここは“地球”という異世界です。いま解析が完了しましたので、これよりゲートを開きます。どうかその場から動かずに」
……って言ったそばから、水玉の生き物が走り出した。
「こらっ!」
私は素早く追いかけて、そっと抱き上げる。
「すら~?」
「ダメですよ、逃げちゃ」
「ゲート解析終わりました!」
「よし、繋いで!」
校庭の片隅に、今度は黒く渦巻くゲートが再び開いた。
「はい、皆さん、ちゃんと並んで、元の世界にお帰りくださいね」
「しゃど……」
「オム、オム~」
「すら~!」
ぞろぞろと妖たちがゲートに吸い込まれていく。
「あーあ、今回も無事済みましたね」
「ですね。お疲れさまです」
風に乗って、校庭のどこかからか「ヤー!」という元気な声が聞こえる。
これで何度目か分からないけど、また一つ、地球の平和が守られた。
……ああ、もう、ほんと――
「運動会なんて、なくなってしまえ」
お読みいただきありがとうございました。