2007/3
今日も僕は、メル友板や掲示板、出会い系サイトで出会いを求め、携帯電話にかじりつく。
一種の精神安定だろうか。
見知らぬ人と、毎日夜遅くまでメールで他愛もない会話をする。
そして時には、一緒に遊び、興味がなければサブアドレスを消して関係を即終える。
そんな行為を飽きもせず、繰り返している。
卒業と進学の季節。
出身県以外にまで検索の手を伸ばし、隅々まで確認していく。
「あった」
ちょうど隣の県から進学のために引っ越し予定の女の子を見つけた。
さっそくメールを送る。
「春から〇〇県に進学するんですかー!? 1コ年下なんですけど、〇〇県に住んでいるんですよ! 良かったら街とか案内しますよ(^^♪ まずはメールからしましょ♪」
いつものように、重くなりすぎないように気を付けながら言葉を選ぶ。
返事がくるかどうかのワクワク感が快感だ。
返事が来なければ、警戒か無視ということ。
あえて2通目を送るかどうか……。
しばらくすると返事がきた。
「初めての場所なので、いろいろ教えてください~(^^)/」
その後もメールのやり取りをし、街ブラ散歩の約束を取り付けた。
相手の名前は 立花 碧。
写メの交換も無事終わっており、小柄で笑顔の可愛い女の子。
笑うと目が細くなるタイプのようだ。
「ふう……」
今回はどうなるかな。
できれば、長く続くことを望んでる。
うまくやらなきゃいけない。
さて、どういうふうに街を案内しようか。
街案内は初めてだ。
今まで遊んだ子は、皆地元の子。
雑貨屋で変わったものを一緒に眺めたり、カフェでお互いの話で盛り上がったり……。
異性と遊ぶときだけは、心が躍る。
同性とは大違い。
男子のノリはよくわからないし、ついていけない。
なにが楽しいんだろう。
きっと、小学生のときのいじめが原因だろう。
でも……女子からも陰ではいじめられてたんだけどな……。
なにが違うんだろう。
どうして女の子と遊ぶときだけは、いきいきとしているんだろう。
そんなことを考えながらも、街案内という名のデートの計画を練っていく。
◇
「駅裏の地下道の入り口で待ってるね(^^)v」
待ち合わせ場所に着き、メールを送った。
しばらくして、
「ごめん。少しだけ遅れる」
と返事がきた。
僕は写メから想像する彼女を思い浮かべ、初めの挨拶はどうしようかと考える。
少しふざけた方がいいか……それとも、高校生らしく軽めにさわやかにいくべきか……。
どんな言葉をかければ、興味を持ってもらえるかだけを考える。
しばらくして、彼女は小走りでやってきた。
「蒼くんだよね!? 準備に手間取っちゃって……遅れた。ごめんね」
彼女は想像よりも素敵だった。
子供のような無邪気な笑顔に、少し大人びた声。
髪の色も、黒から少し明るめな茶色へ。
「大丈夫だよ。碧さんだよね!? ……でも、びっくりした。すごく可愛い!」
「えっ!? そんなことないよ。蒼くんだってかっこいいよ。
それより、碧さんって慣れないな~。メールのときから思ってたんだけど!」
「えぇ~だって先輩なんだから、他に呼びようがなくて。
立花さんじゃ堅苦しいし、碧ちゃんって馴れ馴れしすぎない?」
「ほら!? タメ口でしょ~! ちぐはぐだよ。碧でいいよ。
それに、まだ誕生日来てないから同い年だし~!」
彼女の表情はころころ変わる。
照れたと思えば、笑い。
笑ったと思えば、怒る。
髪色もあって大人っぽいが、子供っぽさもある。
その子供っぽさは、小柄なのも影響してるのかな。
「確かに、まだ同い年だね。あはは。そしたら碧って呼ぶね」
「なんで笑ったの?」
「いや、面白くて……確かに先輩っぽくないかもね」
「蒼くんも少し変わってるよね。メールじゃわからなかったけど……なんかほのぼのしてる」
「そお? マイペースなだけじゃない?」
「違う。いや、そうかもしれないけど……話し方が独特? ふわふわしてるよ。声もあるのかな?」
「疑問にされてもわからないよ、自分では。でも悪くはない?」
「うん。わるくない」
「そっか。なら良かった。それじゃ、街中の方を案内しようと思ってたけど、どこか行きたいところはある?」
「必要なものは、大体そろえたから特にないかな。うん。街中の方でお願いする」
「それじゃ、地下道通って駅前にまず行こうか」
「りょうかい!」
そうやって僕たちは街を歩いた。
最初から街の中心を外れた道を歩いた。
僕も知らない道。
だから一緒に楽しんだ。
「ここの花、きれいだね」
「あの自販機、ラインナップ微妙じゃない?」
とにかく、近場で目についたものを話題にして、お互いに意見を出し、価値観を確かめ、共有する。
そんなお散歩デートだった。
楽しかった。
彼女も楽しんでくれた。
なにより、いろんな表情やしぐさを見ているのが幸せだった。
今思えば、一目惚れに近いのかもしれない。
出会ったときには、もう、好きになっていた。
夕方。
「家まで送るよ」という体で、ちゃっかり彼女の部屋にまで入った。
まだ引っ越しの荷物が片付いておらず、生活に必要なものだけが並べられた部屋。
でも、不思議と女の子の香りがする部屋。
「部屋の整理、大変だね」
なんて、他愛もないおしゃべりをする。
人生初めての、女の子の部屋。
信じられないほど、心臓が高鳴る。
帰り際、「また来てもいい?」と聞き、「また遊ぼ!」と返事を受ける。
それだけで僕は、幸せでいっぱいだった。
僕の二度目の青春は始まった。