2005/10~2005/12
あの日を境に、僕はおかしくなった。
僕は本当に彼女が好きだったのだろうか?
彼女を通して、性の喜びを得たいだけだったのではないか?
こんな僕を、彼女が今も好きでいてくれるはずはない!
情けない僕が嫌いだ!
ずっと負の感情に支配され続けた。
そして僕は結論を出した。
彼女のことを大切にせず、単に性の対象として見てしまった。
そんな僕に、彼女が「好き」という気持ちを持つのは間違っている。
こんな最低な僕なんかに……と。
僕は彼女にメールを打った。
「別れよう。僕は君を性の対象としか見ていなかった」と。
彼女からは、
「一回会って話そう」
「別れるなんて嫌だよ」
「セフレだっていいよ」
「返事ください」
と、メールや着信があったが、すべて無視をした。
幸い、お互いの住所は知らないままだったから、携帯電話だけが唯一の連絡手段だった。
◇
久しぶりに、彼女からメールが届いた。
「今度、市民会館でバトントワリング部の公演があります。16時からですので観に来てください」
僕も彼女の個人練習は見たことがあったが、公演は見たことがなかった。
また、久しぶりのメールに嬉しくなり、
「見に行けたら行きます」
と返事を書いた。
自分勝手だとは思いつつも、気になってしまったから仕方がない。
そう言い聞かせた。
当日、授業が終わり、窓の外を見ると雨が降っていた。
雨の日の部活は、筋トレのみで早く終わるのがいつもの流れだった。
だから、いつもどおり部活に参加してから公演を観に行く予定だった。
けれど、その日は顧問の機嫌が悪かった。
帰り支度をしている僕たちを見つけると、怒鳴り散らした。
「そんなんだから弱いままなのだ」と。
「意志を高く持て」と……。
そろそろ電車に乗らないと公演に間に合わない。
けれど、廊下で説教を受けている状況で「帰ります」という勇気は、僕にはなかった。
説教は1時間にも及んだ。
顧問がいなくなってから、僕はすぐに荷物をまとめ、駅へと走った。
しかし、次の電車は20分後だった。
電車から降りて、僕は走った。
バスを使えば速かったのかもしれない。
けれど、走った方が無駄がないと思い、市民会館まで走った。
市民会館に到着したが、すでに終わった後だった。
急いで彼女にメールを打った。
「今着いた。間に合わなくてごめん。いまどこ?」
彼女からの返信には、
「中央公民館で待ってる」
と書かれていた。
そして僕はまた走った。
中央公民館に着いたとき、彼女は雨で濡れていた。
「ごめ……ん」
彼女の顔は、怒りながらも泣いていた。
頬を伝う雫すべてが、涙に感じた。
「どうして……来てくれなかったの……」
僕は、初めて彼女の消え入りそうな声を聞いた。
いや、今の彼女のすべての感情が初めてだった。
僕が見ないようにしていたものだった。
言い訳ならちゃんとあった。
でも、とても言えなかった。
「ごめん。本当に観に行くつもりだった……けど、間に合わなかった」
「どうして……どうして! 私の今の姿を見てほしかった。こんな姿じゃない。あおくんがいなくても頑張っているよって……」
「ごめん……」
「私、あおくんにひどいこと言われて、死にたくなったんだよ。
何もする気力がなくなり、死のうと思って、体中斬って、倒れて、救急車で運ばれて、入院だってした。
メール送ったよね!? それなのに返事もくれなくて……本当に私のこと、どうでもいいんだって思った」
僕は、分かっていた。
でも、分かっていなかった。
こんなにも彼女を追い詰めていたなんて……。
「観に来てくれるってメールが来て、嬉しかった。
私の方を振り向いてくれたと思って!!
それなのに……来てくれないなんて!!」
「……」
「私は今でも、あおくんのことが好きだよ。
こんなにひどいことされても、忘れられなかった!!」
「……」
「でもさ、あんまりだよ」
そう言って、彼女は帰って行った。
僕は何も言えなかった。
僕は結局、自分のことしか考えていなかった。
あの日以来、彼女と向き合わなかった。
そして彼女を、身勝手にも壊してしまった。
僕もまた、罪悪感と自己嫌悪に耐えられず、壊れてしまった。
そしてこの罪悪感は、生涯消えることなく、一生背負うものになった。