④戌級探索者 木場 真希子
東京都八王子市在住、木場 真希子。
戌級探索者で年齢は44歳、独身。ぽちゃりとした体型で、傍から見れば探索者には見えない。身体能力はまあ申し訳程度に増強されているが、率直に言って一般人の域を出ない。
また、彼女は多くの探索者とは異なり、何か胸に秘める熱いものがあるというわけでもない。探索者であるので探索はするが、殆ど高尾山ダンジョンに限定される。
戌級指定高尾山ダンジョンは協会から採集ダンジョンとして位置づけられており、その最大の特徴としてモンスターらしいモンスターがでないというものがある。野犬のようなものはたまに出るが、それもクマよけスプレーなりをかけてやれば逃げ出す程度だ。
他の戌級だとそうはいかない。最低でもピットブル以上に狂暴で力強い魔犬が複数同時に襲ってくるなどはザラだろう。
高尾山ダンジョンは安全なのだ。まあ余程油断して普通っぽい犬だかにかみ殺されたり、崖などから落ちたりしなければ。
そしてそんな高尾山ダンジョンに、真希子はダンジョンを舐めてるのかと言わんばかりの軽装で探索に臨んでいた。
登山服にガーデニングナイフ、クマよけスプレーとあとは水やカロリーブロック、そして山菜を入れる収納袋が彼女の荷物のすべてである。彼女にとって探索とは戦いではなく、山菜を摘んで生計を立てる日々の営みだった。
真希子には若い頃ホストクラブにのめり込んでしまった悲しい過去があり、貯金はほとんどない。一時期は借金もあったが、それは現在では全て返済し終えている。ダンジョン産の山菜を摘んで月に約40万円ほどの収入を得ているため、普通に生活する分には不自由がない。
彼女にとって探索者稼業は半ばやけくそで始めたものだったが、それが当たった形だ。真希子は山菜を一つ一つ丁寧に摘み取り、収納袋に収めていく。その動作は慣れたものだった。
日々の小さな幸せを維持する為に、生活費を稼ぐ。それと老後の資金も。それが真希子の探索者としての道なのだ。切った張ったなんてごめんであった。
緑鮮やかな樹々の間から歓声が聞こえてくる。
真希子のものだ。
「やったぁ!シロシロワラシベダケ!一本50万円!」