③甲級探索者 甕星 天
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日本政府は激怒した。
探索者協会も激怒した。
必ずかの邪智暴虐の落とし前をつけねばならぬと決意した。
理由は拘束した黑 百蓮より齎された情報である。
黑 百蓮は協会による非人道的な尋問を受けるまでもなく、積極的に今回の旭 ドウムの惨劇の仕儀についての情報を提供したのだ。
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「甕星さんに連絡をしてください」
協会会長望月の声は無感情で、そして平坦であった。
甲級探索者 甕星 天。
協会が保有する大規模破壊兵器である。
PSI能力者の中でもっともポピュラーな念動力者、その極点とされている。
ただ、応用が利かない。
彼女は精神的に問題があり、特定の分野にしか興味を示せない。興味を示せなければ意思のトリガーを引く事ができず、トリガーが引けなければ能力起動に至らない。
だが今彼女に求められている役割は、その特定の分野にあるのだ。
この決定について、常は反目している副会長の桐野 光風もその取り巻きも、今回ばかりは望月に逆らう意思を持たなかった。
副会長派の目的はあくまでも協会権力の掌握であり、日本転覆ではないからだ。
ここまで舐められて何も報復しないのでは、仮に副会長派が協会権力を握ったとてその金看板の価値はかなり下がるだろう。
──しかし、甕星を使うとは。やる時は容赦なしか
桐野は内心で大いに冷や汗を流し、今後のやり方について一部方針を転換する事を決める。
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数日後の出来事である。
中国科学院武漢大覚研究所は、突如として壊滅的な被害を受けた。
原因は直径約10メートルの巨大な隕石が落下したことによる。
その衝撃は甚大で、研究所を中心に半径数百メートルにわたり巨大なクレーターが形成された。
破壊の衝撃波がたちまち拡散し、半径10キロメートル圏内のあらゆる生物の生存が絶望的となった。
その後、日中間で何度も会談が持たれ、情報筋はこの隕石衝突の件について日本が何らかの関与をしていると嘯いたが──…
真相は闇の中。