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②戌級探索者 鈴木美咲&田中恵理

 千葉県は市川市、船橋法典駅。


 大変異前、この駅の横には大き目の駐輪場があったのだが、現在では戌級指定のダンジョンとなっている。


 一歩足を踏み入れれば、まるで立体駐車場を思わせるようなコンクリートの柱が立ち並ぶ空間へと変貌する。


 そしてダンジョン内には自転車型モンスターが跋扈していた。


 といっても脅威度は野良犬より少し上といった程度だ。


 突き出た両ハンドルがブレード状となり、横を走り抜けると同時に斬りつけてきたり、その程度に過ぎない。


 耐久力もそこまでなく、金属バットか何かで思い切り引っぱたくか、銃撃の数回でもくれてやればバラバラになって四散する。


 だがモンスターの金属片は協会で買い取り対象となっているため、金にはなる。1キロあたり20万かそこらだが……。ただ、ホームレスのようにアルミなどを集めるよりは余程良い。あちらはせいぜいキロ200円だとかそのあたりだ。場合によってはもっと下がるかもしれない。


 そんな初心者向けのダンジョンに、今、2人の女性探索者が挑んでいる。


 目的は一つ、金策だ。


 生活費を稼がねばならない。


 彼女達は生活の為にダンジョンに潜っているのだ。


 ・

 ・

 ・


 彼女たちは元々は同じ会社で働く先輩と後輩だ。2人が初めて逢った時、互いが互いを赤の他人だと感じなかった。


 似ていたのだ。


 顔立ちも背丈も何もかも。


 まるで双子の様であった。


 似ていたのは外見ではなく、内面もだ。


 どちらかが悲しいと思った事は同じ様に悲しいと感じる。


 嬉しいと思ったことも同様に。


 2人は急速に親しくなり、交流を重ねていく内に同性という垣根すらも取り払われつつあった。


 しかしある時、女上司にそれがバレてしまう。その上司はジェンダーの問題にやや狭量で、かなり古めかしい感覚の持ち主であった。


 そして嫌がらせが始まる。


 結句、会社に居づらくなった2人は一緒に退職する事にし、美咲は先輩である恵理の家に転がり込む事になった。


 この時、2人とも当初は楽観視していた部分がある。すぐに再就職すればいいと思っていた。しかしその上司は方々にコネクションを持っていたようで、再就職は上手くいかない。


「でもさ、やっぱり2人でアルバイトっていうのも、生活結構苦しいよねえ。女ってほら、お金かかるものだから」


「そう、ですね……」


「ならさ、探索者なんてどうかな? もし美咲が嫌なら、私だけでも探索者になって稼いでくるよ。年収億なんて余裕だってネットで見たよ。風俗とかよりは全然いいでしょ。というかそういう仕事は絶対いやだよ私。一人ならともかくね」


 先輩女がそんな事をいった時、後輩女はそんな危ない事は嫌だと思ったが、好きな先輩に一人任せるというのはもっと嫌だった。無論風俗などという選択肢も論外である。しかし金が無いのも事実だ。バイトも不安定だし、先行きの事を考えると不安になる。


 そんなこんなで結局、2人して探索者の道を選ぶ事になった。


 ──2人でこの先もずっと一緒に居たい。不自由なく暮らす為に、頑張れる勇気を下さい、神様


 最初、後輩女の美咲は自分に探索者なんて勤まるのだろうかと不安だったが、いざなってみればそれまでの不安は一転し、なんとかなりそうだなという気がしてきた。


 ダンジョンにもぐっていると、何か心の中で活力の様なものが湧いてくるのだ。それを勇気と呼べばいいのか、それとも他の呼び方があるのかは美咲にはわからなかったが。


 ・

 ・

 ・


 23歳の後輩探索者、鈴木美咲は小振りのブレードを手に、緊張の面持ちで歩みを進める。ブレードは刃渡り70cm程度のもので、中古品。切れ味はお察しである。


 一方、24歳の先輩探索者、田中恵理はオタコレクションを処分して購入したデリンジャーを構え、周囲を警戒していた。


 防具は中古品で、しかも補修品だが最低限の性能は残している。


 様々な事情で協会が引き取った武器や防具は、そのほとんどがジャンクになってしまっているが、最低限の補修が為されたうえで新米にレンタルされている。彼らには金がなく、間に合わせの武器防具もありがたいものだった。


 柱の影から突然、自転車型モンスターが二人に襲いかかる。


 田中は素早く狙いをつけ、数度銃撃した。


 しかし外れる。


 まだ銃の扱いになれていないのだ。銃口が跳ね上がり、田中に隙ができた


 その隙にモンスターがつけ込み、ぎゃりりという音をたてながら田中の横を疾走した。


 突き出たハンドル部はブレード状になっており、田中は脇腹に大怪我を負ってしまう。


 血も流れる。


 命も流れてゆく。


 田中は苦痛に顔を歪めながらも、自分を見捨てて逃げろと鈴木に言った。


 だが鈴木はそれを拒否する。


 田中を背負って必死にダンジョンを脱出することを決意し、怪我を負いながらも、彼女たちは危険を乗り越えて何とか生還した。


 ダンジョンを脱出した二人は協会に連絡して医療班を派遣してもらい、急いで治療を受ける。治療費はローンで支払うことになったが、金で買えないモノを金で繋ぎとめたのならば上々だろう。

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