①丁級探索者 林みつる
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新橋にはオフィスビルがいくつも建てられているが、そのうちの幾つかはダンジョンとなっている。
殆どが丁級ダンジョンだが、丁級指定のダンジョンが簡単だと舐めてかかれば痛い目に遭うだろう。
いや、痛い目で済めば良い方だ。
この日、新橋のとある丁級ダンジョンを訪れた探索者、林 みつるもその舐めてかかった者の一人だった。
魔境と化したオフィスビルの某所で、林が茫然と立ち竦んでいる。手には造りの粗いショートソードが握られているが、その表情は絶望と恐怖に満ちている。
林の眼前には人の形をした無貌のモンスターが浮かんでいるのだ。それらは皆スーツを着ており、頭部さえみなければサラリーマンの様に見えるかもしれない。
数は十体ではきかないだろう。林は完全にモンスターの群れから認識されており、逃げられるとも思えない。
林は先程からこのモンスターに何度も襲われており、床には彼が倒したモンスターの残骸……スーツやワイシャツなどが散乱している。
林はふとこれまでの事を思い出した。
大学生活を社会に出る準備をする時間ではなく、単なるモラトリアムとしてしか捉えなかった林は、就職早々気鬱になりあっという間に退職した。
そして探索者になろうと決意する。
探索者は危険だが、何より金が良い。
危険と引き換えに大金を得るというのも彼の心を擽った。
いざなってみれば、過酷な肉体労働だ。
林は探索者も早々に辞めたくなった。
しかしもう少し続けてみるか、もう少しやってみるかと続け、気づけば半年。
ある日、林は家を出る際、ドアノブを捻り壊してしまう。
これが噂のダンジョン干渉か、と林は嬉しくなり、嫌いだった努力もして才能を開花させはじめていた。もともと小器用だった林だが、探索のコツをつかんでからは成長が著しかった。
そして丁級にあがり、最初に挑んだダンジョンが新橋のダンジョンで……
スーツを着た無貌の人形が林に殺到する。
首に手が回され、両目に指を突きこまれ、舌を引き抜かれて──……林は限りない苦痛の中で死んでいった。