第26話 クズの末路⑤
無事にダンジョン攻略を終えて帰還した俺たち。
その成果を領主様に報告し、このところ俺たちの活躍を支援してくれている王家にも報告を上げた。
ドラゴンがドロップした黒い結晶を献上したときに返礼品として様々なものが下賜されていたが、その中に王家と直通の通信魔導具があった。
もちろん最初は造りが豪華なただの通信魔導具が混ざってるくらいにしか思ってなかった。
なので特に重要視せず、怒られるのを覚悟で言えば放置していた。
しかしふと興味が惹かれていざ起動してみると通信先が1件登録されていて、なんとそれが王女様……。
当然ながら最初からたいそう拗ねられたご様子……。死も覚悟したが、美しい声ですね、なんて恐れ多い、今日も素敵なお声です、なんて数回言い続けたらそれ以降は機嫌を治していただけました。
今では常時接続させられることもしばしば。
さすがにそれは……と言っても、『なにかやましいことでも?』と言われると断れないこともしばしば。
なお、シファとの逢瀬の際には問答無用で消すけど、その次の通信が適当な謝罪から入るのがお決まりになりつつある。
もちろん王女様も俺に婚約者がいることは理解している。
……はずだ。
そして俺達の攻略祝いの宴会が終わったあとの領主館にて。
いつも宴会してるなぁ……楽しいなぁ……俺に撫でられて赤くなってるシファは可愛いなぁ……とか余韻に浸っていたら、領主様がやってきて話しだした。
「公爵が来られるそうだ」
今さらなにしに?
来るならスタンピードが終わってすぐ来るべき。俺達の中ではアレサンドロのせいで公爵家の印象は最悪だ。
領主様としては支援を受けたこともあるから複雑なようだが。
俺の頭の中はそれくらいだが、領主様やシファには思い当たることがある様子。
今晩準備をするとかで行ってしまった。
一応、王女様にも伝えると、なぜか真面目な声に変わり、準備しておくと。
何を?
そう言えばそもそも黒い結晶を献上した際に後ろ盾というか、公爵からの影響力を落とすことを願っているし、何かしてくれるかな?
あの時は献上すれば味方になってくれると思ったから渡したし、お願い事の内容は任せてほしいと領主様に言われて頼んだから、詳しく知らないんだけどな。
まぁ、貴族ではない入れとしては魔力を撒き散らして威嚇牽制するとか、こっそり公爵をポイするくらいしか思い浮かばないし、そんな指示は出ていないから寝た。
夜にクレアの気配がしたから叩き出した気もする……。
いい朝だ。
いい朝だが、屋敷の中が慌ただしい。
なんと朝食時間の前にもかかわらず、公爵襲来……じゃなかった、来訪の先触れが来たらしい。迷惑この上ないな。
みんな慌ててるみたいだから、とりあえず魔力を放って馬車の馬を驚かして時間稼ぎしておいた。
領主様には一応報告したら咳払いしながら感謝された。
「お忙しい中お越しくださいましてありがとうございます、公爵閣下」
ようやくやってきた馬車から顔をのぞかせた丸っこいおじさんに挨拶する領主様。
アレサンドロとは似てる……のか?
「うむ。出迎えご苦労」
偉そうな公爵はそう言いながら降りてきた。
そしてそれに続くけばい人……。
娘とか?
領主様は公爵たちを応接室に通し、そこで話を始めた。
「ご無沙汰しております、ホーネルド公爵。ミネルヴァ様」
相手の二人は公爵とその娘だそうだ。
対するコチラは領主様とシファ、そしてその婚約者の俺だ。
「うむ。リオフェンダールがスタンピードを打ち倒し、その活躍にワシも鼻が高いのぅ。復興などの相談は欲しかったが、その後どうじゃ?」
寄り親だからな。
本来であれば公爵に報告し、公爵からの国王に報告されるべき案件だが、スタンピードの際のアレサンドロの言動に不信感しかなかったため、ギルドを通じて報告を上げた。
それに対しての牽制と嫌味かな?
ここはギルド、そして王家が上手だったという話でもある。領内が混乱して報告なんか考えられないタイミングで、すべて話が回っていた。
公爵が手を回して抑えていたリオフェンダールの冒険者ギルド長の地位もしれっと後任は決まっていた。
なお、元ギルド長のガンドスは公爵の手のものであり、スタンピード発生の際に誰よりも早く逃げ出していた。
「この領主館もギルドも含めて一帯が崩壊しておりましてな。残念なことにギルド長も行方不明で外部との連絡が取れなかったのですが、王都の方で異変を察知して即座に部隊を組んでいただけておりました。幸い、彼らが到着したときにはすべて討伐を終えておりましたが、その部隊は魔法建築士や工兵もおり、迅速な復旧に手を貸していただけました」
そして領主様が公爵の思惑や嫌味を全部蹴り飛ばした。
まぁ、王家が上手だったよ。
「それは重畳じゃのう。しかしこの街はだいぶ変わったようじゃの……」
これはカジノのことかな?
「王家の指示でギルドを拡張しましてな。あとは領主館も。この一帯は大きく作り変わっております」
責任はすべて王家が背負ってくれている。残念だが公爵に出る幕はない。
そもそもここまで王家が動いたのには理由があるわけだが……
「至れり尽くせりじゃの。復興支援をしようと思ったのじゃが」
「ご心配いただきありがとうございます。その辺りは全て王家が整えてくださったので」
要するに、利権を渡せ、遅いよもうないよ、という会話だな。
「なるほど。では貸し付けておった融資は引き上げさせてもらおう。これだけ発展したなら不要じゃろうしのう」
来たな。まぁ流れは自然ではあるが。
「融資でしたら公爵の指示通りご子息のアレサンドロ様に返済済みですが?」
「こちらが証書になります」
領主様とシファが提示したのは文字通りの返済証明書。しっかりとアレサンドロによる公爵家のサインもある。
「なっ、なんじゃと!?」
「ご存じなかったでしょうか?これはスタンピードの前に交わした書類です。アレサンドロ様が行方不明になったと伺っておりますが、しかし証書は魔法印も施しており、有効なことはご確認いただけると思います」
見せられた書類の日付欄を凝視している公爵。
シファ曰く、逃げ出す際に父を不機嫌にするなとか言っていたアレサンドロにエランダが嫌々ながら金を持たせることになったらしいが、きっちりとサインはしていったので助かった。
出鼻をくじかれた公爵はぷるぷるしている。
きっと、返す金がないことを想定して無理難題を吹っかけようとしたんだろうが、甘いな。
そしてまだまだ序章だ。
ここでやめて帰るならそれでいいが、どうせまだ何か準備をしているんだろうから全て蹴り飛ばしてやる。覚悟しろよ?




