第22話 本気のダンジョン攻略のはずが異世界ラブコメ回①
どうしてこうなった……。
俺は目の前に集まったものを順番に眺め、もう一度目を閉じる。
そして再び目を開き、また順番に眺める。
みんな可愛いし華やかだけども……。
「ラクスさん?」
可愛く愛らしい容姿。まるで天の鐘が響くような心地よい声で俺の名前を呼ぶのは我が婚約者・シファだ。
うん、今日も可愛い。
このまま抱っこして帰りたい。
帰ってもいいかな?
「ラクス、どうしたの?」
隣にいるのは美しく清廉な容姿はまさにお姉さん。実際に俺がかつて養子に入った家の娘で義理の姉・ミシェール。
ずっと一緒に旅してきたけど、申し訳ないけど女性としてみたことはなく、大切な仲間だった。
「ラクス……」
そして俺がこれから始めていく清純派異世界ラブコメに全く必要がないド淫乱魔法使い・クレア。
まさかジキルともアレサンドロとも……他にもたくさん関係を持っているとは思わなかったけど、こいつは頭弱いし、金の亡者だし、もうそういう職業の人だと思うことにしよう。
しかしパーティーメンバーだ。スタンピードを前にして逃走しやがったと聞いた時には怒りを感じたが、ふたを開けてみればジキルとアレサンドロにいいように使われており怒る気も失せた。
さらに捨て置かれて領主様が昔作った砦で気絶していたところを保護した結果、なんと周りの目なんかまるで気にせず戻って来た。なお、エランダから貰っていた俺の資産は返してくれた。
「ラクスさん」
そしてこいつはなぜここにいる?
クラインが心配するぞ?と思うんだが、言うことを聞かない隣町のギルド長の娘・メリア。
なおクラインはこいつの父親で、隣町のギルド長だ。
曰く、まだスタンピードは終わっていない。ダンジョンの秘密を解き明かさなければならないからだだと?無茶苦茶な理論振り回してんじゃねぇ!それだと下層に潜ってきっちりボス倒してこないと終わらないじゃねぇか!
まぁ、最後のセリフを言い放ったのが失敗だった。
『えっ?ラクスさん、下層ボスに挑むんですか?』『つっ、ついに?』『俺はラクスさんならやれると信じてるぜ!』『ラクスさん……私のために……?(上目遣いでクソ可愛い)』なんて反応に囲まれ、気付けば行くことになっていた。
そしてパーティーメンバーとして自分も行くと主張したミシェールとクレアに、臨時パーティーだけど自分もというメリア。さらにそれに可愛らしく嫉妬したシファまで行くとか言い出して……おい、領主様止めて!っと思ったけど、君のそばが一番安全そうなんじゃ、と言われて決定したのが今回の探索だ。
ちなみに深層から逃げて帰って来た時には逆走していたから下層ボスは出現しなかった。
ボス部屋はアレだと思う心当たりはあるが、ボスがいなかったんだからきっとそうだ。
そんな情報……というか記録は見たことがないんだけどな。
「さぁ、行きましょう!」
「えぇ」
「頑張る……」
「気合入れて行きましょう!」
「あっ……あぁ……」
なぜこの娘たちは皆こんなに気合が入っているんだろうか?
不思議ではあるものの、やる気がないよりはましだと思うことにする。
もう、途中の野営はどうするんだとか、着替えはどうするんだとか、お花を摘みたいときはどうするんだとか思うけど、誰も話を聞いてくれないんだ。
お前らわざとやってるだろう?
そして俺は決めた。
そうだ、半日くらいで攻略すればいいんだ。あはははははははは~~~~~~~。
「なかなか時間はかかったけど、特に崩れることもなく、安定して下層に入ることができそうですね」
手際よく野営設備を整えているのはメリアだ。
ここは危険なダンジョンの中。それも中層から下層に向かう階段の手前だ。
なぜかこういう空間ではモンスターが湧きづらいので、野営をする場合によく使われる場所だ。
ダンジョンがない隣町のギルドとはいえ、秘書兼冒険者をしていた実力を発揮して、率先して準備を担当していた。
「えぇ。火力はラクスさんで十分だし、獰猛なモンスターの突進をミシェールさんが止めてくれるので、私はまるで安全地帯をお散歩しているような気分でした」
シファ……知らないうちに強い娘になって……。
ただ、繰り返すがここは危険なダンジョンの中だ。
お散歩って……。
まぁ、否定はしないけど、ちょっと危機感を持ってほしいから、あとで話をしておこう。
「心強いですね。でも明日は下層です。こんなに楽ではないので、気を入れなおしてくださいね」
ミシェールはさすがお姉さんだ。俺の言いたいことをきっちり言ってくれた。
しいて指摘するなら、どこから持ってきたのかなと思うくらいに調味料や香辛料を並べて煮込み料理を作っていることくらいだろうか。
「zzz」
そしてこのおバカ!
なにを居眠りしてんだよ!!!
そもそもお前自分の立場、わかってんのか?手伝えよ!
いや、こいつがやったら夜寝てる間に崩れたりしそうだから実際手を出してほしくないけど、気持ちくらいは見せろ!
「ラクス……いたい」
「なんで寝てんだよ!」
つい魔力をぶつけてしまった。しかし謝る気はない。お説教だ。
「シファ、ラクスがイジメる……」
「ラクスさん、気持ちはわかりますが、一応仲間なので……」
「シファ優しい」
いや、違うよな。
シファは俺に心情的に合意しつつ、でも今はやめておこうねって言ったんだよな?
なんでこのド淫乱魔法使いはシファにすり寄ってんの?
「できました!」
「そんなことだろうと思ったよ、くそが!」
「えぇ?」
そして予想通り、メリアたちはテントを1つ組み立てていた。
だから俺もテントを1つアイテムボックスから取り出す。
さぁ、寝よう。
「ラクスさんのおにぃ~~~~」
なにか隣から聞こえるけど、さぁ寝よう。




