第20話 クズの末路③(クズ視点)
「待ってください!アレサンドロさん!」
「ははは、僕を追ってきたのかい?酷い男だな、君も。婚約者と愛人を置いて来るなんて」
うるせぇ。俺はいつだって勝ち馬に乗ってきたんだ。
こんなところで死んでたまるかよ!
それにお前だって金と享楽の亡者だったクレアを愛人にしてたし、そもそも自分のところの従業員を全員置いて来てるじゃねーか!!!
「なら馭者をしたまえ」
「はい」
どうやら連れて行ってくれるらしい。
そもそもなんでこいつは1人なんだ?貴族ならお供くらい連れていても……。
だが、そんなことは俺には関係ない。
アレサンドロの用意した馬車に乗ってリオフェンダールの街から逃げる。
さすが公爵の息子だけあって、仕立ての良い馬車だし、引いている馬も良い。
抱き心地の良かったエランダとクレアを両方失ったのはもったいないが、背に腹は代えられない。
今は一刻も早くスタンピードから離れるべきだ。
俺はまだ終わらない。
"閃光"のパーティー資産を受け継いだ俺のアイテムボックスの中には金貨も武器もアイテムもいっぱい入っている。
惜しいのはエランダが引き継いだラクスのやつの資産を奪えなかったことだが、それでも剣やアイテムの一部はいただいた。
充分な資産になるだろう。
ざっと金貨1,000枚……。
これだけあれば、今逃げ延びさえすれば遊んで暮らせるぜ。
ある程度、街から距離を取り。
馬を休憩させる。
本当は馬なんか気にせず行けるところまで逃げたいが、アレサンドロがそうしろと言うならそうするしかない。
自分で走って逃げるのよりは、休憩を入れたとしてもこっちの方が早いんだから。
「指示されたことは終わりました。行きましょう」
「あぁ。助かるよ。自分でやるのは面倒だったからね」
これも面倒くさい貴族対応だと思ってやり過ごすしかない。
本来は機嫌を損ねただけで殺されるような相手だ。
「1つ言い忘れたけど、馬車の運賃は金貨1,000枚だからね」
「はっ???」
なんだと?
今こいつはなんて言った?
「はっ?じゃなくて、ホーネルド公爵領の領都までついてくるのか、途中で降りるつもりなのかは問わないけど、どこで降りてもスタンピードから逃がしてやるんだから、運賃は当然だろ?」
「なっ……俺には馭者をやれと」
「あぁ。もちろん、それは助かるよ。それ込みで金貨1,000枚だと言ってるんだよ」
こいつ……絶対に俺の資産をわかって言ってやがる……。
チクショウ……こんなやつが。
俺は拳を握りしめる。
こいつは単身だ。今なら……。
「あれ?どうしたんだい?たぶん払えそうなラインで言ったつもりだったんだけどな。持ち合わせがない?」
「……」
「怖い顔してるねぇ~。まさかこの僕を害そうなんて考えてる?」
「……」
「おぉ、本気かい?ホーネルド公爵の三男を殺して君が生きていけるとでも?」
「……くそっ」
「あはははは。バカなもんだよね。婚約者と、お腹の子供を捨てて逃げたやつの末路としては例え無一文になっても生きてるだけいいんじゃないかな?あっはっはっはっは」
「……てめぇ」
俺は全力で拳を振った。
怒りに任せて。
しかし……
「ぎゃあああああ」
「あはははは。この僕が守りのアイテムくらい身につけてると思わなかったのかな?ウケる。あ~っはっはっはっは」
殴りかかった俺の腕は切り落とされていた。
「バカだな。交渉の基本だろ?持てる全てを尽くして上位に立つ。持っているカードを使いながら相手を潰す。こんなにも簡単にひっかかるなんて、君もエランダちゃんもバカばっかりだね」
「……エランダも?」
「エランダちゃんは僕のためにラクスのお金を相続してくれたんだよ。そんな権利ないのにね。まぁガンドスに相続可能だって言うように指示したのは僕だけどね。追い詰められたからって確認しないエランダちゃんが悪いよね。あっはっはっはっは」
「……」
俺はどうでもいい話でなんとか時間を稼ぎ、アイテムボックスから回復薬を取り出して傷口にかけるが、治らない……。
「あぁ、相手によっては傷なんか気にせず襲ってくるからね。当然状態異常も付与されるし、痛みは増幅されているし、また殴りかかってきても同じ効果が発揮されるよ?まだやるかい?ぷ~っくっくっくっく」
ここで終わりか。
こんなところで。
卑劣な商人に取り入り、悪辣な盗賊に取り入り、偽善な冒険者に取り入り、愚昧な貴族に取り入ってここまで生き延びてきたんだ。
生きるためなら、よりよい条件を得るためならなんだってやったんだ。
それなのにこんなところで終わってたまるかよ。
くそっ……。
くそっ……。
くそっ……。
「まぁいいさ。ちなみにここで降りても金貨1,000枚は変わらないからね~。って、もう動かないね。つまらないな。もっとあがいてくれよ。エランダちゃんはまだ落としがいがあったのに、君はつまらないね~」
何かを言いながらこいつは俺の体をまさぐる。
「あったあった。じゃぁこれは貰っていくよ。運が良ければ生き延びられるんじゃないかな?」
そう言って、俺のアイテムボックスを奪ったこいつは俺の体から離れていく。
血を失いすぎた俺は状態異常のせいもあるのか起き上がれない。
もう、首すら動かない。
「えっ……」
そんな俺の耳に、クズの微かな声が聞こえた。
なんだ?
唐突に周囲が陰る。まだ夜でもない……影か?
そして熱い。
どんどん熱くなる。
なんだ?なにが起きてる?
俺たちがいた一帯に、何かが降ってきて……
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