第二章 出会い(1)
加代と出会ったのは、私が二十七歳の時だった。十二年程前になる。
三年間勤めた会社を辞め、特にやりたい仕事が無かった私は、次の仕事までの繋ぎとして、西新宿にある定食屋でアルバイトをしていた。
それまでの勤務先は、零細のシステム開発会社で、営業の仕事だった。多忙期には開発メンバーと共に何日も泊まり込みになるのは言うまでもなく、寝ずに働くことが勲章のように思う先輩に囲まれ、システム障害などで休日や夜間に急に呼ばれて出勤したりと休みなく働く生活に心も荒んでいた。
そんな過酷な勤務で精神のバランスが狂って崩れた中、理不尽な指示をする上司と口論になり、逃避するように会社を辞めた。
転職先も決めずに職を失ったが、取れていない有給休暇と共に通帳の預金も蓄えられており、すぐに生活に困ることはなかった。
半年程度は失業保険をもらいながら、次にやりたい事を探す金銭的な余裕はあるだろうと安直に考えていた。
定食屋のアルバイトは、気分転換のつもりだった。営業職だったので、接客業には抵抗はないし、仕事内容も専門的知識を必要としないので、年齢的に始めての職種でもハードルは低かった。西新宿の高層ビルに囲まれたその定食屋は、昼食時は周辺のサラリーマンで混み、夕方になると居酒屋として利用する客で繁盛している。私は時間を持て余していたので、昼過ぎから閉店までフルに働いていた。
その定食屋は、都内に十数店舗チェーン展開しており、一代でここまで大きくした社長は、アルバイトに対して非常に厳しく、少々の失敗でも、すぐに店裏に呼ばれて叱られる。長く働く人も、入ったばかりのアルバイトでも関係無く、失敗を見れば、「ちょっといい?」の社長の一言で、店内は「また始まった」と震え上がる。もっとも、全店舗で百人以上いるアルバイトが、何年働いているかなど覚えている筈もなく、過去に同じ人を叱っても記憶にないだろう。
社長に度々叱られて店を辞めるアルバイトは多いのだが、専門学校が近くに数校あり、時給が比較的高く設定されていたため、常時募集中のアルバイトの不足に困る事は無かった。
人の入れ替わりが激しいため、アルバイト同士の関係は希薄だったように思える。




