エピローグ 再会
新幹線で帰る絵美を見送った帰り道、ふと立ち寄ったコンビニで目にした女性が、加代にとてもよく似ていた。その瞬間、忘れかけていた加代との出来事が鮮明に蘇り、胸に切ない痛みが広がった。
加代の死を知ったあの日から、空虚な気持ちを抱えたまま、私は歌舞伎町のバーを辞めた。彼女との記憶を消し去ろうとするように、システム開発会社に転職し、引っ越しもした。無理やり仕事に没頭し、心のどこかで加代を忘れたいと願っていた。だが、その一方で、他人への興味や自分の感情さえも捨て去ってしまったように感じていた。
しばらく経ち、再び絵美が出張で東京に来た。
新幹線の改札で、つい手をつないでしまったことがあったため、少し気まずさを感じていたのは私だけだった。絵美はいつもと変わらず、「今晩、空いてますか?」と軽やかに声をかけてきた。
その夜、彼女が予約していたイタリアンレストランで食事を共にした。雰囲気が良すぎて、少し落ち着かない気分になったが、「前から来たかったんです。」と明るく言ったので、私には縁のないこの店を絵美と楽しむことにした。
ワインを一本空ける頃には、すっかり酔いが回っていた。
絵美は相変わらずの調子で話す姿を見ると、失恋の傷もすっかり癒えているのだろう。絵画や流行の映画や本の話をひとしきり話して満足した絵美が、この前は自分の失恋を暴露したのだから、今日は私の失恋の話を聞きたいとせがんできた。
私は少し迷いながらも、これまでの恋愛について素直に話した。女性から告白され、別れを告げられることを繰り返してきた。今はあまり恋愛をする気持ちにはなれないこと、付き合ってもどこかで心が離れているように感じてしまうことを伝えた。
すると、絵美は真剣な表情で言った。「大輔さんは、すごく優しいのに、どこか冷たさがあるんですよね。まるで心が別の場所にあるみたい。」
彼女の言葉に、私は何も言い返せなかった。彼女が指摘した通り、心の奥底では、今もなお、加代がいるのだろうと感じている。
ふと絵美が、先日の食事の際、私が野菜スティックを食べて涙を流したことを思い出した。
「あの時、どうして泣いたんですか?」
「以前、長野で農業をしていた友達から小さな段ボール箱が届いたんだ。その子が初めて種を植えて作ったニンジンが入っていたんだ。その時、懐かしくって、そのままニンジンを頬張ったんだよ。ちょっと土がついていたけど、葉っぱまで、そのまま。
『頑張って作ったんだね。』って思ったら、その時も涙が出てね。『美味しいニンジン作ったね』って言いながら、涙ながして食べたんだ。たぶん、それと同じ味がしたんだと思う。」
「大輔さんって、なんか本当に優しい人なんですね。」
そう言って、絵美は穏やかに微笑んだ。
絵美の後ろには、あの日と同じくこちらを見つめて微笑む少女の絵画が飾られていた。




