第八章 手紙(2)
三月に入ろうとする頃、加代から二通目の手紙が届いた。
「
畑仕事にも少し慣れてきました。
朝が早くて大変ですが、何も考えずに暗くなるまで働いていると、嫌なことを忘れられます。それに、毎日、美味しい野菜を食べられて、とても幸せです。
今は、キャベツの収穫をしています。
冬は日が短いので、夕方からは時間が余ることが多くなりました。大輔さんに本を読むようにと言われたのを思い出し、近くの図書館で本を借りて読むようになりました。
図書館で地図を見つけ、大輔さんの住所を調べてこの手紙を書いています。
」
宛先の住所を見ると、丁目までは書かれているものの、番地はなく、マンション名、部屋番号、そして私の名前だけが書かれていたのはこれが理由だったようだ。郵便配達員も苦労して届けてくれたのだろう。
「
しばらくは、ここで頑張ろうと思っています。
それでは、またお手紙します。
加代
」
加代の住所は書かれていなかった。おそらくこの手紙を洋平が手にすることを恐れているのだろう。
「長野県の住み込みバイトを募集している農家」というだけでは、住所を特定するのは難しい。加代の母親なら、聞いてるかもしれないが、加代を助けると言っておきながら何もできなかった私は、加代の母親に連絡することに多少の抵抗があった。「またお手紙します」と書かれているのだから、それまで待とうと自分を納得させた。
加代からの手紙は、私の多くの悩みを解消してくれた。加代の所在が母親に伝わっていること、母親が私を恨んでいないこと、そして加代が元気にしていること。気にかかっていたことのすべてが手紙に書かれていた。
「雲外蒼天」という言葉を見たことがある。
まさにそれだと思った。長野での暮らしが、加代を取り巻く黒い雲を吹き飛ばし、新しい生活の青空が見えた気がした。しかし、同時に加代と一緒に暮らせるという私の希望も薄れていった。
私は仕事に没頭し、加代からの次の便りを日々待つようになった。
加代が図書館で本を読んでいると手紙にあったので、今度会えたときに、加代が好きそうな本を渡そうと、仕事前に本屋に寄るのが日課になった。




