第七章 決意(3)
理恵は、頭が良く、合理的で、間違えた判断をしたところを見たことがない。その判断は非常に速く、数学の難題を解くように論理的思考を駆使して事実を積み上げ、日々の生活で起こる小さな問題も、まるで無かったかのように平然と解決していく。その冷静さと能力には、ただただ感嘆するばかりだった。夕食の買い物に行ったときも、店に入ってから見つけた特売品をベースにメニューを組み立て、驚くほど安い価格で素敵なディナーを作り上げてしまう。そんな理恵の合理性が、付き合い始めた当時はとても魅力的に映っていたが、次第にその魅力が私にとっての障害となっていったのかもしれない。
電話の向こうで理恵の冷静な声が響いた。
「あなたはその加代って子が好きなのよ。」
その言葉を聞いた瞬間、私の心は深く震えた。理恵の言葉は、おそらく間違っていないのだろう。
いや、間違っていなかったのだ。
私が避けていた自分の中の核心部分に、理恵はまるで見透かしているかのようだった。
私は言葉を失っていた。
しばらくの沈黙の後、理恵の言葉が静かに電話越しに響いた。
「私の荷物は、年が明けたら取りに行くわね。」
その言葉を聞いた瞬間、想定していなかった理恵との別離が事実だと突きつけられた。
「ごめん。」
と、私はぼそりと呟いた。
「謝らないで。」
理恵の声は、冷たくもあり、どこか平静さを保ったもので、私の謝罪がどれほど無意味に感じられるかを伝えていた。
「ごめん。」




