第七章 決意(1)
加代の事情を知ってしまった今、彼女を突き放すことなど、私にはできなかった。
だからと言って、私が加代と付き合うという選択肢も、考えていない。年の差もあるし、彼女の事情を知った同情のような気持ちも強い。そして、私を父親に重ねて頼っているのだから、そのような恋愛感情を持つのは違うと感じていた。
家を出て私の家に来た彼女だから、住む場所もないのだろう。寮のある仕事に就こうにも、未成年者の加代ではすぐに見つかるはずもない。まして、大晦日の夕方などでは、面接すら受け付けていないだろう。当面は、加代をこの部屋に泊めるよりほかない。
また、理恵との問題もある。年が明けて、安全に暮らせる場所が見つかったとしても、おそらく理恵のことだから、きっと加代がここに居たことに気づくだろう。どんなに私が加代の痕跡を隠蔽しようとしても、私の詰めの甘さが理恵に物的証拠を発見させる。中途半端に隠すことが、理恵にも私にも得にはならない。
理恵とは、バーで働き始めてからギクシャクしてきていたし、今一度彼女との関係を考え直す時期なのかもしれない。
しかし、加代を理由に理恵と別れる決断を下すのは、理恵にも加代にも失礼だと感じる自分がいる。
想像を巡らせるほどに、まずは理恵としっかり説明し、加代のことをどうするのか考えようと思った。わずかながら理恵が納得して、少しの期間でも加代を泊めておくことを容認してくれるかもしれないという期待もあった。
すでに加代を二泊させている。それだけでも理恵に対して後ろめたい気持ちがある。理恵が戻ってくるのを待って話し合いをしたとしても、それまで加代がここに住んでいた事実は覆せず、余計に理恵を裏切ることになり、状況は日々悪化するだけだと思った。
理恵に電話するからと、加代にはファミレスで時間を潰して欲しいとお金を渡した。加代が出て行った後、私は理恵にどう切り出すかをシュミレートしていた。
大晦日。同棲する男に突然突きつけられる事実としては、最悪の内容だ。
「もしもし、どうしたの?」
「ああ、ちょっと…。」
おそらく私は上手く切り出すことができないだろう。
「実は…。」
それ以上話すことができないだろう。
「実は?」
理恵の性格から畳み掛けるように聞いてくると思う。
加代のこれまでの事情を簡単に話す。
「なんで、あなたがその子を助けなきゃならないの?他に行くところはあるでしょ。」
その理恵の勢いに、私は反論できなくなる。
「その子の友達もいるでしょ。警察に駆け込んでもいいじゃない。」
矢継ぎ早に言葉が出てくるのが容易に想像される。
「その子にすぐ出て行ってもらって。」
「私と別れたいなら、別れたいって言えばいいじゃない。」
次々と飛び出す彼女の言葉に対し、何も言えないまま、理恵が苛立ちを感じ「好きにすれば!」と言って、理恵は電話を切る。
そんな結末だろう。
受話器を持って、想像を巡らすが、どのパターンでも、納得させられる糸口は見当たらなかった。
そして、女性の勘が恐ろしいことを、この時ほど感じたことはなかった。
目の前の電話が鳴り、心臓が跳ねた。
「もしもし、大輔?」
理恵の声だった。




