第六章 葛藤(10)
加代の話が終わり、私は言葉を失って無言のまま、時がゆっくりと流れていった。
私の横で加代は、凛とした表情で涙を堪えている。
部屋の静寂が、私の心の中で加代の言葉の重みをじわじわと感じさせた。何ら言葉が出ないまま、私は無意識に目の前の牛乳を一気に飲み干し、グラスを手に持って台所に向かう。
その間も、加代は黙っている。
部屋の加代が目に入ると、先程のままうつむいて黙っている。
グラスを洗い終え、何もすることもできず、台所でしばらく立ち尽くしている。
加代にかける言葉を一生懸命に絞り出そうとするが、何も頭に浮かんでこない。
静寂が、時間を余計に感じさせる。
加代に、何でもいいから声をかけよう。
そう思って、振り返ると、目の前に加代が立っていた。
私は驚きとともに、無意識の中で加代を抱きしめていた。
そして、心の奥から自然に「大丈夫だよ」と口にしていた。
その言葉と共に、加代は堪えていた感情が限界を迎えたように、大きな声で泣き出した。
加代の涙は、長い時間止まることはなかった。
彼女の細い肩が震え、その涙は部屋の静けさを破って流れ続けた。
そして、この小さな少女が、一人でこんな理不尽な現実を静かに背負っていたのだと思うと、私の胸は締め付けられる。
どれくらいの時間が経ったのだろう。かなりの時間が経ち、加代も落ち着いていた。
それでも、しばらく無言で加代を抱きしめ続けている。
加代が、ふと顔を上げて私を見た。そして、静かに言った。
「『大丈夫だよ。』って言いましたよね。彼女さんと一緒に住んでいる部屋に、未成年の子を連れ込んで、何が『大丈夫。』なんですか?」
その言葉とともに、加代はクスッと笑った。




