第一章 再会(4)
「私、不倫だったんです。」
「えっ。」
私の失敗談の返しで出す話題としては衝撃的過ぎた。
思いも寄らない絵美からの言葉に、私は言葉を失った。
意識を失いかける私を置いてきぼりにするように、絵美は続けた。
「二年付き合っていたんですが、彼が結婚していることは知らなくて。」
引き続き私は意識を失っている。絵美に気の利いた言葉も思いつかない。
絵美の話では、その彼は、他の会社に勤める人で、転勤して大阪に来ていたという。しかし、実は単身赴任だったそうだ。会社の同僚に紹介されて付き合うようになったが、二年の単身赴任が明けて東京に戻ることが決まった際に、「また転勤になった。」と聞かされ、真剣だった絵美は、結婚を切り出した。しかし、相手は別れたいと言ってきた。東京で独立を考えているから、結婚はできないという。絵美が納得できぬまま彼は東京に帰っていった。
今回の出張で、彼に会いに行って、再び話し合いを求めたが、突然東京まで会いに来た絵美に、彼は結婚していたことを白状した。
「私が東京まで来たから、言い逃れはできないと思ったようなんです。」
絵美は目を伏せながら、静かに言葉を続けた。彼女の声には、疲れと諦めがにじみ出ていた。
意識を戻した私は、やっと絵美に返す言葉を見つけ出し、
「本当のことを聞いて、諦めはついた?」と聞いた。
明るく話す絵美の目には、涙が浮かんでいるのがわかった。絵美は少しだけ頷き、静かに「はい」と答えた。
しばしの無言が続き、私もじゃまにならない程度の言葉を、絵美にかけた。
絵美も、私と話をしながら少し落ち着いた様子になった。
「男の人って、誰でも平気で嘘をつけるんですか?」
突然の質問に、私は少し驚きながらも、どう答えるべきか悩んだ。
「どうなんだろう。」
私の曖昧な返答に、絵美は寂しそうな笑みを浮かべた。
「騙されていた私も悪いのかも知れないです。振り返ってみると、そんな素振りがあったような気がします。うちに来ているのに、他の女性からの電話に慌てて出ていたり。東京に戻るときは、会社に持っていくお土産とは別にキャラクターのお菓子を買っていたこともありました。実家の母親に持っていくからと言っていたのをそのまま信じていました。女性の勘は鋭いって言うけど、私は鈍感なんでしょうね。」




