第六章 葛藤(9)
「大輔さんと池袋で買い物をした日の夜。先輩の部屋に戻ると、先輩の彼氏、健一さんが来ていました。彼が『美味しい肉をもらったから一緒に食べよう』と言うので、先輩と三人で部屋で鍋をすることになったんです・・・。」
加代が静かに、これまでの経緯を話しだした。
加代は、美香の部屋で健一と共に鍋を食べた。
美香と健一はワインを楽しんでいたが、未成年の加代は当然飲めない。次第に食事会が盛り上がり、美香も酔いが回ってきたため、半ば強引に加代も一口飲むことになってしまった。お酒が弱い加代は、その一口で気持ちが悪くなり、先に休むことにした。
夜中に目を覚ますと、健一も美香のベッドで寝ていた。
朝になり、美香が健一を起こそうとしても、健一は二日酔いだと言って起きる気配がない。
「少し休んだら帰る」と言うので、美香も諦めて家を出た。
健一に対して不信感を抱いていた加代は、二人きりになることに強い抵抗を感じ、急いで家を出ようとしたその時、健一が起きてきて、後ろから加代を抱きしめた。
健一の「二日酔い」は嘘だったのだ。
加代は、大きな声を出そうとしたが、「美香の部屋で騒ぐと迷惑になるよ」と低い声で脅され、「一回だけだから」と強く押さえられた。
男性の強い力に抵抗できず、泣きながら言いなりになってしまったという。
健一が部屋を出た後、加代は恐怖から美香の部屋に留まることができず、逃げるように実家へと帰った。
実家に戻ると、偶然会った友人づてに、加代がいることが洋平に伝わった。
母親が、加代は不在だと説明するが、洋平は何度も押しかけてきて、嫌がらせのように家の周りで騒いだりする。近所の住民から警察に通報されることもあったようだ。
家に引きこもる生活を送ったが、洋平がやはり加代は居ないと思ったのか、来なくなった。
落ち着きを見せため、加代は近所の弁当屋でアルバイトを始めた。早朝に仕事に出て、昼前には帰ってくるので、人目にもつきづらい。
三ヶ月ほど経ったある日、加代が仕事を終え、店を出ると洋平が待ち構えていた。そのまま洋平に連れ去られてしまった。
暴力を振るわれる恐怖が加代の態度に現れ、それが洋平をさらに苛立たせた。洋平の部屋で三日ほど過ごしていたある日、加代は突然吐き気を催し、その吐き気が妊娠によるものであることに気づいた。
相手は健一だった。加代は、洋平に妊娠を知られると暴力が激しくなると考え、必死で隠していたが、頻繁にトイレに駆け込む加代の姿を見て、洋平も妊娠を疑い始めた。
洋平は、美香とも面識があり、美香に迷惑がかかると考えた加代は、相手が健一であることも言ない。
止むを得ず私の名前を出し「私も同意の上だった」と説明したそうだ。洋平は私の居場所を問い詰めたが、加代も私の家の住所は正確に知らない。洋平の暴力は一層激しくなり、その暴力によって加代は流産してしまった。
その後、加代は洋平の暴力を恐れて意思消沈し、洋平の言いなりになっていた。ある日、洋平の仲間が家に集まり酒を飲んでいた時、少し買い物に出た洋平の目を盗み、洋平の家から逃げた。
家に戻り、母親に事情を話してから、急いで私の元に来たというのだ。
私は無言で加代の言葉を聞いていたが、あまりにも重すぎた。




