第六章 葛藤(8)
十二月三十日。店は年末最後の営業日だ。
店内は、年末の繁忙期に相応しい混雑ぶりだったが、12時過ぎから次第に客が減り始め、閉店時間前に最後の客が帰ると、店内にはほっとした静けさが戻ってきた。
スタッフで年末の掃除をさっと済ませた後、店の忘年会が始まった。社長がスタッフに「今年もお疲れ様」と金一封を配ると、早々に次の店へと向かっていった。
忘年会を終え、私は始発電車で家に向かった。
駅前のコンビニで加代の朝食を購入し帰宅する。ドアの前で「もしかしたら、もう加代は居ないかもな」と、自分の期待とは別の言葉を呟いた。部屋に入ると、加代は寝袋に包まれて眠っていた。音を立てないようにしずかに着替えた後、すこし加代を覗き込んだ。薄目を開けた加代と目が合うと、彼女が「おかえりなさい」と寝袋の中から寝惚け顔で微笑んだ。
「おはよう。でも、まだ寝てていいよ。」
と、できるだけ平然とベッドに入り、小声で「おやすみ。」と言うと、加代は小さく目を開けて頷き、再び目を閉じた。
昼前に目を覚ました私は、加代がすでに起きて静かにテレビを見ているのに気づいた。
「三日まで休みだから。」と話すと、加代は「大掃除しましょう。いろいろ買っておきました。」と答え、台所を指さして私の嫌いな掃除道具が詰まった袋を見せた。やる気満々の加代の気持ちを削ぐわけにはいかず、「やるか!」と声を上げて観念した。
加代は台所を担当し、私は部屋の片付けを引き受けた。理恵の荷物が部屋中にあるため、加代には気を使わせたくなかったのだが、台所にも理恵の物が密集しているのに気づき、少し反省した。
ひと仕事終えて、コンビニで買ってきたパンで軽い昼食をとると、加代が存在する部屋が多少の違和感が残ることを感じた。
掃除も終わり、外が暗くなり始めていた。
時計を見ると、すでに十六時を過ぎている。
「もう、夕方だから、大晦日をしようか。」と声を掛けると、加代は「はい。」と疲れた様子ながらも喜んで返事をした。
少し片付いた部屋の隅に加代の大きなバッグが置かれていたが、中の荷物は意外にも少なそうだ。
私はそのバッグを見ながら、
「やっぱり、聞かないほうがいいかな?」
と、ぼんやり呟いた。
すると加代は静かに私の隣に座り、口を開いた。
「大輔さんと、池袋に買い物に行った日の夜・・・」




