第六章 葛藤(1)
加代と池袋に買い物に行った翌日、突然、加代が店に来なくなった。
数日の欠勤の後、「辞める」と電話が入ったらしい。
何があったのか気になったが、私には加代の実家の連絡先もわからず、その理由を知る手立てはなかった。
加代が店を辞めて数ヶ月後、私は新しくアルバイトとして入ってきた理恵と付き合うようになった。
これまでにも女性と付き合ったことはある。学生時代に付き合っていた女性とは、社会人になってからお互いの仕事が忙しくなり、自然に別れてしまった。その後、仕事を通じて知り合った他社の事務職の女性とも付き合ったが、私が会社を辞めて定職に就かずにいると、彼女は次第に不満を抱くようになり、結局別れを切り出された。彼女は結婚を考えていたのかもしれないが、私が定職に就かないことに不安を感じたのだろう。その後、私はこの定食屋でアルバイトを始めた。
理恵は大学を卒業した後、デザイナーになる夢を追いかけ、服飾の専門学校に通っていた。厳しい家庭で育ち、父親からは大学に進学するように教育されてきた。大学を卒業後、普通に就職する道もあったが、デザイナーになる夢を諦めきれず、自費で専門学校に通っていたのだ。大学時代は仕送りを受けながらアルバイトをし、その給料を専門学校の入学金として貯めていた。今は、学費と生活費を稼ぐためにバイトをしながら専門学校に通っている。
理恵が店で働き始めてから二週間ほど経った頃、偶然帰りが一緒になり、食事をした。その時、理恵の夢に向かって頑張る姿勢と、その夢に対する貪欲さに感動した。酔った勢いもあって、私は大声で理恵を絶賛してしまい、それが理恵にとって「自分を理解し、応援してくれる人」という印象を与えたらしい。数日後、理恵から告白され、私たちは付き合うことになった。
付き合い始めて一週間後、仕事帰りにファミレスに寄った。話の流れで私は半分冗談で「生活費の節約に、うちに住んじゃえば?」と言った。すると理恵は笑いながら「そうね」と答えたが、その翌週には少ない荷物を持って私の部屋に引っ越してきた。夢を叶えるために必死になっている彼女だけに、その行動力には驚かされた。
理恵の強引さは、私を完全に圧倒していた。彼女に流されるように付き合い始め、このまま結婚するのかもしれないと考えた。私の性格を考えると、それが最善なのかもしれないとも思った。
理恵が部屋に来て一月も経つと、この部屋の主は理恵なのだと感じるようになった。荷物が少ないにもかかわらず、理恵の存在の何かが私の居場所を占領しているのだ。
そして、理恵は私を理想の夫にするための言葉を口にするようになった。
「そろそろバイトは辞めて、正社員の仕事を探して。」
彼女に言われて動き出すのは少し癪だったが、いずれ結論を出さなければならないと思っていたので、理恵の言葉に従い、職業安定所や求人情報誌を見て仕事を探し始めた。




