第五章 少女(4)
部屋に入ると、加代は玄関の棚から寝袋を取り出して、床に広げ始めた。
「今日は、私、これで寝ます。」と、少し甘えるような声で言う。
「いやいや、先輩と連絡がついたら帰るんだよ。タクシー代も出すから。」
そう言う私に対し、加代は困ったような顔をして黙ってしまった。
その後、何度か美香のポケベルにメッセージを入れてみたが、返信はなかった。
部屋に入ってから30分ほど経ち、テレビを見ながら時間を潰していたが、私の眠気が限界に達し始めていた。
私は加代の着られそうな服をクローゼットから取り出して渡しながら言った。
「女の子をそんな雑な場所に寝かせるわけにはいかないから、ベッドを使っていいよ。」
加代は少し躊躇していたが、私の提案を受け入れ、渡した服に着替え始めた。私はその間に寝袋に入り観念して寝る準備を整えた。
加代が着替え終わり、ベッドに入る前に、小さな声で「ごめんなさい・・・。」と言った。
その声には、どこか申し訳なさと甘えが入り混じっていて、私はその言葉にどう答えるべきか一瞬迷った。
以前、加代が家に泊まった時は、私も酒を飲んでいたこともあり、すぐに眠りについたが、この日はなかなか寝つけない。加代もゴソゴソと寝返りを打っている音がするところ見ると、どうやら彼女も同じように眠れないのだろう。
私は静かに声を掛けた。
「眠れない?」
「いえ、安心します。大輔さんの匂い。」
加代の声に、私は少し戸惑いながらも返す言葉が見つからなかった。
気まずさを感じた私は話題を変えた。
「明日は出勤?」
「はい。」
「そうか。一度帰ってから出直さないとね。」
「大丈夫です。このまま出勤するつもりで、部屋を出てきましたから。」
本当に泊まるつもりだったようだ。私がコンビニに寄らなければ、偶然に会うこともなかっただろうし、家までの道順も知っている様子ではなかったと思う。
「もし、僕に会えなかったらどうするつもりだったの?」
「この前、電話番号をもらったので、電話するつもりでした。」
確かに、前回、電話番号を教えていたことを思い出し、私は納得した。
「明日、仕事なら、そろそろ寝たほうがいいね。」
「はい、おやすみなさい。」
加代はそう言って、再びベッドの中で寝返りを打った。




