第五章 少女(2)
暗がりの公園で、加代と並んでベンチに座っていた。街灯の光がぼんやりと周囲を照らしているが、それでも辺りは薄暗く、静かな時間が流れていた。加代の横顔は柔らかく、どこか無防備で、私は少し居心地の悪さを感じていた。
「そういえば、体調。良くなった?」
私は、何気なく尋ねた。
「本当は、実家に戻ってたんです。先輩の家にお世話になるのが長くなりそうだから、もう少し洋服とかを持ってこようと思って。」
「お母さんは、心配していたでしょ。」
私は加代の顔を覗き込んだ。彼女の瞳には、少し不安気な光が宿っていた。
「はい。洋平も何度か家に来たみたいで、やっぱり家にいるのは良くないって・・・。」
仕事場での彼女は、もっと大人びていて、しっかりしていると感じていたが、今、目の前にいる加代は、無邪気で純真だ。
「そうか・・・。」
「・・・。」
すこし、二人は無言になった。
「ところで、シチュー食べに行ったんだって?」
暗い話ばかりでは気が滅入ると思い、私は話題を変えた。
「あっ、はい・・・。」
加代は一瞬驚いたように私を見上げた。その表情は子どもっぽく、何かを思い出すかのように視線を泳がせた。
「美味しかった?」
私は優しく問いかけた。彼女が少し躊躇しているのが気になった。
「結構、強引に誘われたんです。」
加代は少し困ったように笑った。その笑顔が、どこか幼さを感じさせた。
「その店は、閉店が早いから、別の日にみんなで行こうって言ったんですが。」
「あれ、仲良くなったんじゃないの?」
私は、少しからかうように言ってみた。
「いえ、あまり・・・。」
加代の返答は素直で、彼女の率直な気持ちが伝わってきた。店で聞いた話とは少し違っていたが、それが彼女の本音なのだろう。
「今日。お店、忙しかったですか?」
加代がふと別の話題を振ってくれた。彼女が自ら話しかける姿に、私は少し意外さを感じた。
「そうだね。夕方から団体が入ったから、めちゃくちゃ忙しかったよ。最大戦力の加代ちゃんがいなかったから大変だったよ。」
私は少しおどけたように言った。
「そんなことないですよ。」
「でも、仕事を覚えるのは早い方だよね。」
私は素直に彼女を褒めた。
「みんなに迷惑かけないようにって、ちょっとだけ、家で復習したんです。」
「そうなんだ。復習なんて偉いね。だから、あんなに覚えが早かったんだね。サービス行は初めてだって言っていたよね。」
「はい。だから余計に最初は頑張りました。」
「そういうところ、しっかりしてるね。」
私は優しく言葉をかけた。彼女は嬉しそうに笑い、
「大輔さんって、お父さんみたいです。」
と言った。
「そんなにおじさんかな?」
「そうじゃなくて、時々、私を子ども扱いしているみたい。」
加代は、少しふてくされたように言いながらも、どこか楽しそうに笑った。
「私のお父さん。私にとっても甘くて、なんでも『偉いね』『すごいね』って褒めてくれたんです。だから、私もすごくお父さんっ子で。大輔さんに褒められてると、なんだかお父さんに褒められているみたい。」
加代は嬉しそうに話し、その表情は無邪気で幼さが残っていた。
「全然、子ども扱いしていないよ。本当にすごいよ。」
加代は私の慌てる様子にまた笑っていた。
「でも、大輔さんは、本当に『いい人』ですよね。店の人たちも言っていましたよ。忙しくてもイライラしないし、何でも笑顔で手伝ってくれるから、何でもお願いしやすいって。」
「それって、都合が『いい人』ってことじゃないの?」
私は少し照れ隠しに冗談を返した。
加代を褒めていたつもりが、いつの間にか逆に私が褒められていた。彼女の無邪気な笑顔が、先程までの重かった空気を和やかにしてくれていた。




